「この一年、どんな成果を残せたかな……」 そんな問いが、ふと頭をよぎる季節です。
11月は、多くの組織が振り返りの会議を開く時期。けれど、それが数字の総括や反省に終始すると、チームの意欲は目に見えて落ちてしまいます。
振り返りの会議は本来、過去から学びを得て未来につなげるためのもの【1】。 「この会議は、次の一歩につながっているだろうか?」──そんな不安を感じても大丈夫。このコラムでは、振り返りを次の確かな一歩へと繋ぐヒントをお届けします。
資料に目を落としていた視線を上げて、もう一度、自分たちの「これから」を見つめ直してみませんか?
「評価会議」ではなく「再起動の会議」を
「前期の施策は5つ実施し、うち3つが目標を達成しました。」
そんな報告を聞いて、心が動く人はどれほどいるでしょう。
成果を共有しても盛り上がらなかったり、数字以上に手ごたえを感じられないなら── 振り返りの場を「結果を伝えるだけの時間」から「意味を見つける時間」へとアップデートしてみましょう。同じ1時間が、ぐっと前向きな場へと変わります【2】。
その一歩を支える、2つのヒントをご紹介します。

STEP1:「評価」から「共感」へ
振り返りの冒頭で、問いかけを変えてみましょう。
❌ 「目標達成率は何%でしたか?」
⭕ 「この期間で一番印象に残った瞬間は何でしたか?」
数字ではなく体験から入ることで、メンバーは自分の言葉で語り始め、評価の緊張感が和らぎます。
具体的な問いかけ例:
- 「予想外にうまくいったことは? その理由は何だと思う?」
- 「一番心が動いた瞬間はいつ?」
- 「チームの誰かの行動で、助けられたことはあった?」
これらの問いは単なる雑談ではなく、感情を手がかりにした対話の入口です。
なぜ「感情」が会議を動かすのか
会議で向き合っているのは、数字ではなく人です。「正確に話さなければ」という緊張感の中では、創造的な発想は生まれません【2】。
感情を伴う記憶(エピソード記憶)は、次の挑戦の原動力になります。一方で、数字や知識といった意味記憶だけでは、行動に結びつきにくいことが研究でも示されています【3】。
論理だけでは、チームのエネルギーは続きません。感情を共有することで、「やってみたい」という意欲が生まれるのです。
「あの日、会議で議論が白熱して時間を忘れた」
「失敗したけれど、打ち合わせ後にチームで笑い合えた」
「お客様の表情が、ふっと変わった瞬間、とても嬉しかった」
感情に光をあて、共有する。そこから次の行動が生まれるとき、会議は再起動の場へと変わり始めます。

STEP2:「共感」から「行動」へ
感情を共有したら、その熱を行動へとつなげましょう。
人が最も動機づけられるのは、自分で選び(自立性)、成長を実感し(有能感)、仲間とのつながり(関係性)を感じているときです【4】。
この3要素が満たされると、「やらなければ」ではなく「やってみたい」という意欲が生まれます。
具体的な実践例:
💪 「来月の会議までに、一人一つ『試してみたいこと』を決める」(自立性)
🤝 プロジェクト開始時に「期待と不安」を共有する時間を作る(関係性)
🏆 成功事例を社内チャットで即座にシェアする習慣を始める(有能感)
そして次の会議で『試してみたこと』を報告する時間を設けます。
「うまくいった/思ったより大変だった/予想外の発見があった」──様々な報告があるでしょう。ここで大切にしたいのは結果の良し悪しだけでなく、「やってみたプロセス」を共有することです。
最後に、こう問いかけてみてください。「この1時間で、気持ちはどう変わりましたか?」
「話してみて前向きになれた/自分だけじゃなかったと分かって安心した」──そんな声が出てきたら、チームはもう動き出しています。

感情を動かす会議設計──KMQTの活用
チームで感情を共有する手法の一つに、株式会社MIMIGURIが提唱するKMQT(ケモキュート)法があります【4】。一人ひとりの体験を4つの観点から整理するシンプルな仕組みで、現場での導入が進んでいます。
本来は「Keep/MoyaMoya/Question/Try」の構成で内省を深める設計ですが、ここでは「Keep/More/Quit/Try」という形でご紹介します。
「もっとやりたい」「手放してもいい」といった前向きな感情を、次の行動へつなげるための、意図的なアレンジです。
① Keep(続けたいこと):うまくいったこと、これからも大切にしたいこと
② More(もっとやりたいこと):テンションが上がった瞬間、深めたい領域
③ Quit(やめたいこと):負担になっていること、意味を感じにくいこと
④ Try(新しく試したいこと):次に挑戦してみたいアイデア
このフレームワークを使うときのポイントは、「More」から始めることです。ポジティブな体験を先に共有することで、場の空気がやわらぎ、率直な対話が生まれやすくなります。
そして、「なぜそう感じたのか?/何が嬉しかったのか?」と問いかけを重ねていくことで、チーム内の理解が深まっていきます。
ファシリテーションのコツ:
💞 感情語を返す
「それは嬉しかったですね/悔しさが次につながったのですね」と、言葉を感情とともに受け止めることで、心理的安全性が生まれます。
🌿 沈黙を怖がらない
感情を言葉にするには時間が必要です。沈黙を埋めず、メンバーが自身と向き合う時間を大切にしましょう。
🎨 感情を可視化する
「ワクワク」「達成感」「悔しさ」──会議で出てきた感情をホワイトボードに書き出してみましょう。どんな感情がチームを動かしているのかを可視化することで、次の行動へのヒントが生まれます。
感情を言葉にし、沈黙を受け入れ、共感を返す。その丁寧な対話が、次の行動を生み出す原動力になります。

会議デザインの成功例
世界の企業でも、会議の設計を見直すことで成果を上げる動きが広がっています。
対話型への転換:
ソフトウェア開発企業のBroadcom社は、振り返りを成果報告型から感情・経験共有を軸にした対話型へと転換。「どの瞬間に誇りを感じたか」「そこから何を学んだか」と問う時間を設けた結果、チームのパフォーマンスは前年比20%向上、顧客対応スピードは24%短縮、品質指数は42%改善しました【5】。
意見を出しやすい仕掛け:
また、ヨーロッパのあるアプリ開発企業では、会議前半を匿名ツールで実施。普段は発言しないメンバーも「モヤモヤしていたこと」を積極的に投稿するようになり、アイデア量が33%増加しました【6】。
これらに共通するのは、感情が組織を動かすエネルギーになるということ。それを引き出すのは、丁寧に設計された振り返りの場です。
「振り返り」を“始まりの会議”に
振り返りは、過去を閉じる会議ではなく、未来を開く会議です。 数字や計画では生まれない推進力は、「楽しかった」「悔しかった」「もっとやりたい」といった感情から生まれます。 感情を言葉にし、次の小さな行動へつなげる。問いを変え、対話を生み、一人ひとりの意欲を引き出す。
会議室のドアを開けるとき、メンバーの目が輝いている——そんなチームの再起動を、この11月に始めてみませんか。
参照資料
【1】Gallup. “Give Performance Reviews That Actually Inspire Employees.” Gallup Workplace, 2019–2025.
https://www.gallup.com/workplace/236135/give-performance-reviews-actually-inspire-employees.aspx
【2】Edmondson, A. C. “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams.” Administrative Science Quarterly, 1999. https://dash.harvard.edu/handle/1/37968728
【3】松本 慎也. 「自伝的記憶の構造と測定課題」日本認知心理学会, 2021. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcogpsy/19/2/19_39/_pdf
【4】瀧知惠美(株式会社MIMIGURI).. 「“もやもや”を問いに変えるふり返り『KMQT(ケモキュート)』で、チームのイシューを探り、メンバーの関係性を育む」, 2020.
https://note.com/takichi/n/n712238cd25ac
【5】 Ryan, R. M., & Deci, E. L. “Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being.” American Psychologist, 2000.
https://selfdeterminationtheory.org/SDT/documents/2000_RyanDeci_SDT.pdf
【6】NimbleWork. “Retrospectives: The (Not So) Secret Weapon for High-Performing Teams.” NimbleWork Blog, 2024.
https://www.nimblework.com/blog/retrospectives-weapon-for-high-performing-teams/
【7】Google re:Work. “Guide: Understand Team Effectiveness.” Google re:Work Guides, n.d.
https://rework.withgoogle.com/guides/understanding-team-effectiveness


