稼働率だけでは見えない価値──“使われ方”から考えるオフィスROI

オフィスに足を踏み入れた瞬間、その会社の空気をなんとなく感じ取ってしまう。
そんな経験はないでしょうか。

整った空間なのか、雑然としているのか。働く人が活発に言葉を交わしているのか、静かに集中しているのか……。オフィスは言葉にしなくてもその会社の「今」を物語る、企業にとっての「顔」でもあるのです。

だからこそ、オフィスにかかるコストを考えるときには、賃料や維持管理といった投資対効果だけでなく、その空間がどんな価値を生んでいるのかを見なければなりません。

そのとき、稼働率はわかりやすい手がかりになります。席や会議室がどれだけ使われているのかは、オフィスの現状を把握するうえで重要です。けれど、「どれだけ使われたか」だけでは語りきれないのが、オフィスの価値の奥深さでもあります。
必要なときに相談できるか。対話が滞らず、集中できる場所を選べるか。判断が前に進む環境になっているか。そうした“使われ方”まで見てはじめて、オフィスROIは立体的に見えてきます。

このコラムでは、稼働率の数字の奥にある“使われ方”から、オフィスROIを捉え直します。

1|高稼働が生む、使いづらさ

オフィスに行けば、ちょっとした確認が早く進む。
そう思って出社したのに、話せる場所やタイミングがつかめない。結局、同じオフィスにいる相手へチャットを送っている。
ーーそんな経験はないでしょうか。

オンラインで多くの仕事が進むようになった今、オフィスに集まる時間には、以前よりもはっきりとした意味が求められています。オフィスに行くなら、その時間にしかできない相談や対話が起きるはず。そう期待しても、同じ場所にいるからといってそうした行動が自然に起きるとは限りません。

むしろ高稼働のオフィスでは、別の問題が目立ってきます。
話したいときに話せる場所がない、集中したいときに落ち着ける場所がない。ちょっとした相談をしたいのに、空いているのは大きな会議室か、周囲に会話が聞こえてしまうような場所だけ……こうした使いづらさは、実際の現場でよく起こります。

たとえば仕切りの少ないオフィスでは、対話や知識共有が生まれやすい一方で、周囲の声が気になったり、込み入った話をしづらかったりすることがあります。オープンプランのオフィスは、対話や知識共有を促しやすい反面、騒音や気の散りやすさ、プライバシーの不足が生産性を損なう要因になりうることも指摘されています【1】。つまり、オフィスが使われていることと、会議・相談・判断が前に進んでいることは、必ずしも同じではないのです。

高稼働であることは、必ずしも良いオフィスの証ではありません。見るべきなのは、その場所がどれだけ使われているかだけでなく、集まった時間を仕事の前進につなげる使われ方ができているか、なのです。

では、その“使われ方”を具体的に見るには、何を手がかりにすればよいのでしょうか。鍵になるのは、その場所がどんな行動を支えているかという視点です。

2|場所を、行動で捉え直す

高稼働の裏にある使いづらさを読み解くには、「その場所で、どんな行動が支えられているのか」という視点が欠かせません。

集中して資料をつくりたい。少しだけ相談したい。数人で判断をそろえたい。1on1で込み入った話をしたい。仕事にはそれぞれ異なる行動があり、その行動に合った場所の条件も異なります。場所があること自体よりも、その場所が行動に合っているかどうかが重要です。

静かに考えたいときには、音や視線を遮れる環境が必要です。
短く相談したいときには、すぐに使えて声が漏れにくい場所が使いやすい。判断をそろえる場では、資料を見ながら表情を交わせることが大切で、込み入った話をするならプライバシーが保たれる個室が求められます。
つまり、オフィスは「その行動に合う席や空間があるか」で評価すべきなのです。

こうした環境の不足は、調査結果にも表れています。Leesmanの調査では、働く人の89%が「個人の集中作業」を自分の役割にとって重要だと答えています。一方で、1人または2人で静かに働ける部屋への満足度は40%にとどまりました【1】。集中して働くことの重要性は広く認識されているのに、それを支える環境が十分に整っていない。ここに、オフィスの使いづらさがあります。だからこそ、オフィスには複数の行動を支えられる柔軟さが必要になります。

稼働率だけを見ても、その場所が仕事を前に進めているかまでは分かりません。集中、相談、判断、対話。それぞれの行動に合った場所が、必要なときに選べるか。その視点から見てはじめて、会議室や座席が本来の役割を果たしているかが見えてきます。

では、その“使われ方”を日々の運用の中でどう捉えればよいのでしょうか。


3|数字の奥にある、運用のズレ

Job総研の調査では、出社に必要性を感じる理由として「すぐに質問しやすい」(61.4%)、「リモートより意思疎通できる」(52.6%)が上位に挙げられています【2】。対面で働くことには、質問や相談のしやすさ、意思疎通のしやすさへの期待があるようです。
イトーキの「WORKPLACE DATA BOOK 2026」でも、各社が自社の働き方に合わせてオフィスのあり方を見直している様子がまとめられています【3】。2026年のグローバルトレンドでも、オフィスは単なる勤務場所ではなく、チームの生産性や対人コミュニケーションを支える場として位置づけ直されています【4】。だからこそ、その場所が期待される役割を果たしているかどうかを稼働率だけで判断することはできません。

そこで必要になるのが、稼働率をひとつの数字として見るのではなく、その中身を分解して読むことです。
予約上は使われている会議室でも、実際には使われていない時間があるかもしれません。必要な時間帯に小さな部屋が足りず、少人数の打ち合わせに大きな会議室が使われていることもあります。 予約、実利用、時間帯、人数を重ねて見ていくことで、数字の裏にある運用のズレが見えてきます。

たとえば、いすゞ自動車株式会社では、約140室ある会議室について、チェックインデータとWeb会議端末の人数検知データを組み合わせて利用実態を見ています【5】。予約上は使われているように見える会議室でも、実際に使われたか、何人で使われたかを重ねて見ることで、予約と実利用の差や、人数に対する部屋の使われ方が見えやすくなります。

データを活用する意味は、稼働率を上げることそのものではありません。会議・相談・判断が前に進む使われ方を見つけ、次にどこへ投資すべきかを考えることにあります。 オフィスROIを“使われ方”から捉えることは、空間を単なるコストとして見るのではなく、仕事を前に進めるための投資として設計し直すことなのです。

まとめ|稼働率の先にある価値

オフィスで人が働く。一見あたり前の光景ですが、その意味は単純ではありません。
毎日出社する人もいれば、必要なときに集まる人もいる。チームや職種によって、オフィスに求める役割も少しずつ異なります。

だからこそ、オフィスの価値をひとつの数字だけで判断することはできません。稼働率は大切な手がかりであっても、結論そのものではないのです。
必要なときに相談できるか。対話が生まれ、集中できる場所を選べるか。判断が前に進む環境になっているか。そうした行動がその場所で実際に起きているかまで見てはじめて、会議室や座席は、単なる面積のコストではなく、仕事を前に進めるための投資として見えてきます。

オフィスは企業の姿勢を伝える「顔」であり、働く人の日々の行動を支える場所でもあります。稼働率の数字の奥にある“使われ方”を読み解くことは、オフィスの価値をより確かに捉える、第一歩になるはずです。

参照資料

【1】Leesman「The workplace why」(2025年)
https://www.leesmanindex.com/articles/the-workplace-why/

【2】Job総研「2026年 出社に関する実態調査」(2026年)
https://jobsoken.jp/info/20260413/

【3】イトーキ「WORKPLACE DATA BOOK 2026」(2026年)
https://workstyle.itoki.jp/lp/wpd2026

【4】JLL「【2026年】CRE(企業不動産)戦略で注目すべき5つのグローバルトレンド」(2026年)
https://www.jll.com/ja-jp/insights/market-outlook/top-global-cre-trends

【5】いすゞ自動車株式会社「データ活用が後押しする、オフィス運用改善の次の一手」https://www.workstyleos.com/cases/ql5j1j3aoc/

この記事をシェア

人気記事