アフター・コロナの今、多くの企業が「最適な働き方」を模索しています。リモートワークから出社回帰へと舵を切り直す企業も増え、ワークスタイルとともにワークプレイスを見直す例も目立ちます。人が生き生きと働き、パフォーマンスを上げることは、人的資本経営にとって必須の課題。これからの「はたらく」のデザインについて、8,000件以上のオフィスデザインを手掛けてきたヴィス社の執行役員である小川慧さんと、プロジェクトマネージャーの佐々木隆生さんにうかがいました。
「引き渡して終わり」ではなく継続的なコンサルテーションを実施
ー オフィスデザインという仕事について、御社の基本的な考え方を教えてください。
小川 オフィスのあり方には、歴史的な変遷があります。例えば高度経済成長期には、オフィスは「作業空間」という捉え方をされていました。「どれだけ人を詰め込められるのか」みたいな世界です。時代が変わってIT化が進んでいくと、パソコンや周辺機器、通信ネットワークなどが普及したことで、「知的生産性」が問われるようになり、オフィスは「より人間じゃないとできないことを行う」場所であることが求められるようになりました。そして、さらには社員間のコラボレーションやコミュニケーションから生まれるアウトプットが重視されるようになった。このように、人の働き方の変化に伴って、働く場所のあり方も変わってきたわけです。
こうした時代の変化に合わせて、私たちの活動も変わってきています。当社も元々はオフィスデザインを中心にクライアントの企業価値を向上させることを強みとして事業展開をしていました。しかし、オフィスデザインだけで企業価値を向上させる時代はもう過ぎ去っていると捉えています。今はまず、企業ごとにどのような働き方がいいのか、どういうワークプレイスが最適なのかをしっかりとコンサルティングする必要があります。単純に「人が増えたからオフィス面積を広げる」のではなく、働き方が多様化していることを前提として、社内の合意形成をしっかり図って、オフィスのあり方を考えることが、人的資本へのより良い投資につながっていくと思っています。
ー 先にデザインありき、ではないのですね?
小川 その通りです。どのようにして企業が独自性を発揮し、最適な状態を構成していくか、まずは現状をしっかりと把握することが重要です。感覚的なものというより、オフィスの稼働状況や現状の空間の配分構成など、できるところは数値化していく。そこから適正な移転先の坪数計測やひとり当たりの面積などを考えていく。その作業を私たちは「プログラミング」と呼んでいますが、それがオフィスをつくるうえでの基礎となります。
さらにオフィスが完成しても「引き渡して終わり」ではなく、その後もオフィスが狙い通り運用されているかどうか、従業員の満足度はどうかなど、継続的なコンサルティングも実施します。これを「アップデート」と呼んでいます。「空間をつくる」ことは私たちが求めるゴールではなく、あくまでスタートであり、その空間で働く人々の働きやすさ、働きがいを高めてその企業の価値を向上させ、事業を成功させることこそが、私たちが目指す「ワークデザイン」のゴールです。

ー アップデートについては、どのような尺度を重視されていますか?
小川 最も大事なのは、「働く人の気持ち」だと考えています。アップデートでは従業員の満足度調査を実施しますが、大きく6項目に分けてサーベイを行います。ワークプレイス、ワークスタイル、エンゲージメント、カルチャー、ウェルビーイング、やりがい、という6項目です。ワークプレイスについて考えるにあたって、多くの企業が空間や働き方に関する要素を根拠にしていますが、私たちは、それ以外の人的資本に関わる要素も重要視して、お客様と一緒にワークプレイスの構築を行っています。
ー なるほど。気持ちに寄り添うオフィスづくりというのはユニークな視点のように感じます。お客さまには、どのあたりが支持されていると思われますか?
佐々木 こうしたサーベイを実施しつつ、その結果を踏まえて根拠に基づいた設計をできるというところが、お客様に共感いただいているのかなと思います。さらに先ほど申し上げた通り引き渡して終わりではなく、継続的に会社の動きを見ていき、さまざまな新しい変化に対応すること。いわば、継続的にお客様と一緒にPDCAを回しながら、最適な働き方や環境について考えていく体制であることが、支持されているのだろうと思います。
小川 このあたりは、けっこう新しい取り組みなので、お客様に対しても、それらの重要性や効果をきちんとご説明し、新たな気づきを提供できたらと考えています。
「ワークショップ」を通じて、社員の参加意識が醸成される
ー コロナ後の働き方の変化について、どのように見ていますか?
小川 働き方も変わってきたので、それに応じた働く場所のあり方も変わるべき。総論では、みなさん理解されていると思いますが、かといって自社の「ベスト」についてはなかなか思い至らない、ということがあると思います。コロナは、そのことについて考える機会になったのではないでしょうか。
例えば、トップダウンでオフィスを構成していくことが本当にいいのか、という考え方が生まれています。それに加えて上場企業には人的資本の開示義務も課せられ、従業員側の気持ちも汲みながら進めなければなりません。私たちは、社員の皆さまに集まってもらって「ワークショップ」を開き、望ましいオフィスの構成について対話をしてもらっています。大きな経営方針を尊重しつつ、社員の皆さまの希望や意見をきちんと拾って、その企業としての「最適な状態」をつくっていく必要がある。社員が一体となってワークプレイスをつくっていくというあり方が、徐々に理解されてきています。
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ー ワークショップについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
小川 ワークショップは大きく分けて3つのフェーズで実施されることが多いです。 1つ目はプログラミング段階で、オフィスのあるべき姿やどんなふうに働いていきたいのかを見つけ出すワークショップです。2つ目は移転前に行うもので、新しいオフィスや運用がある程度決まった段階で、できる限りその空間と働き方に適応するためのマインドセットを醸成するためのものです。3つ目は移転した後しばらく運用してみてから行うもので、オフィスが狙い通りに運用ができているか、そこで働く皆様がどう感じているかを共有し、今後どうオフィスを活用していくかを表出化させるものです。ワークショップも一定間隔で実施していくべきだと考えています。
佐々木 あと社員一人ひとりが、みんなでひとつのオフィスをつくりあげるという当事者意識がとても高まります。オフィス移転プロジェクトは、規模にもよりますが、何千万円、何億円という非常に大きな投資です。それをトップ層やプロジェクトメンバーだけでではなく、社員の皆さまも巻き込んでみんなで取り組む方が、より良いオフィスつくりプロジェクトになると思っています。
小川 ワークショップを実施すると、それまではあまり会話をしなかった人同士が会話をすることによって新しい気づきが生まれたり、参加者が社内でプロジェクトの目的の浸透を加速させる、言わば社内インフルエンサーのように活躍してくれたりしているという話はよく聞きます。本来の目的に加えて、さまざまなプラスの変化をもたらす効果もあるのです。
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ー生産性を高めたいと考える経営者にとっては、働き方の多様化は悩ましい一面もありそうです。
小川 ハイブリットワークが進む中、オフィス回帰の流れも起きています。働き方の多様化は進んでいますが、何のためにテレワークをするのか、何のために出社を促すのか、そこに意味や意義を結び付けて、社員も経営者も同じ方向を向く必要があると考えています。
ー オフィス移転の顕著な成功例を教えてください。
小川 インパクトの大きい事例だと、「離職率がゼロになった」という話がありましたね。固定席しかなかったオフィスを、固定席に加えてフリーアドレスの空間に変え、ABW(Activity Based Working)を導入しました。自分の席がありながらも、働く場所の選択肢をつくりだすことで、働きやすいオフィスへと生まれ変わりました。さらに、空間以外の要素では、オフィスに花を飾る習慣を取り入れ、月末の花を入れ替えるタイミングで社員が集まって、みんなで分けて持ち帰るというイベントが新たなカルチャーとなったそうです。それまでにはなかったカルチャーを移転のタイミングで取り入れることも、プラスに働いたと思います。
佐々木 社歴100年を超える企業の事例もあります。歴史がある分、働き方に関してはアップデートすることがほとんどなく、オフィスは部署ごとの固定席が並んだ「働くためだけの場所」でした。
そこで私たちは、各部署の担当者の方々を集めてワークショップを実施し、皆さんから意見を募りました。その結果、オフィスを完全フリーアドレスにし、デザインにもかなり力を入れて、イメージを一新しました。また、これまでなかったイベント事を定期的にやるようになったこともあり、「働く人の気持ちが大きく変わった」という声をいただいています。
株式会社ヴィス HP:https://workstylelab.acall.inc/interview_vis_vol-1/
次回は、働き方をデザインするヴィス社が「出社したくなるオフィス」について、具体例を解説します。


