新しい働き方のために最適なオフィスのあり方はどのようなものか。コクヨではオフィスづくり、各種ファシリティの開発にとどまらず、その利活用のあり方にも着目した「ワークスタイル領域」「ライフスタイル領域」でのビジネスの取り組みを進めています。
そこで得られた知見について、ワークプレイス事業本部ソリューション企画部の松本俊夫さんにうかがいました。
合わせて、シンガポールで進む国主導による新しい働き方の実践例についてAcallの代表を務める長沼斉寿が紹介します。
(本稿は2024年7月11日に開催されたセミナー「パフォーマンスを向上させるオフィスDX」の内容を再構成したものです)
ABWが広がり、オフィスについての考え方が変わった
(コクヨ株式会社 ワークプレイス事業本部 ソリューション企画部 松本俊夫 氏)
コクヨは2022年からワークスタイル領域、ライフスタイル領域での様々な取り組みをしています。その中でもオフィス空間を作るだけでなく、「いかに利活用するか」は大きなキーワードで、品川にTHE CAMPUSという新社屋を開設して、ICTを含めて働きやすい環境の提案を行うなど、積極化しているところです。
フリーアドレスやABW(Activity Based Working)は、従来のオフィス環境に革新的なアプローチをもたらす働き方として広く見られるようになりました。
フリーアドレスは、コロナ以前から広がっていました。2019年には首都圏で27%の企業がフリーアドレスを導入していましたが、2023年には36%になっています。地方でも同18%が27%へと増えています。
従来のオフィス面積の考え方では「1人あたりの専有スペースが何平米か」という視点が一般的でしたが、必ずしも週5日の出社を必要としない企業も増えたことで、単に従業員の人数でオフィス面積を決めるのではなく、出社する人数をベースに席数を決めたり、従業員が快適に仕事ができるように打ち合わせスペースやカフェスペースを作るなど、オフィスのあり方が柔軟になってきていることが、このデータから見て取れます。
この先も、おそらくこうした動きはさらに進んでいくものと思われます。そんな先々の変化について、私たちは、『2030年「はたらく」の未来予測』※としてまとめ、公表しています。
これからの職場は、これまで以上にどんどん多様な人材が入ってきます。世代も様々ですから、価値観が多様になります。そうなると、昔のような「いいからやれ!」みたいなことは通用しなくなります。これからは自分への評価や目的が重視されますので、経営者やマネジャーも、そのことを意識する必要があるでしょう。
そのような新たな価値観を背景として、企業は「儲けること」も大事ですが、サステナブルも含めた存在価値やパーパスが、より重視されるようになります。
ジョブディスクリプションとか、成果報酬を社員の方から報告するということも含めて、評価制度もだんだん厳しくなっていきます。
さらに、スピードを持って付加価値の高いプロダクトを投入し、高い顧客体験価値を提供していく必要があるでしょう。
このようなさまざまな観点を踏まえて、社員が生き生きと働くことができるオフィスづくりを進め、諸制度を含めた組織づくりをする必要があります。
社員のパフォーマンスを最大化させる最適なオフィス環境とは
働く人の世代に関しては、Z世代と、2010年代以降に生まれたα世代との違いも興味深いところです。
Z世代は「貢献志向」が強く、社会の役に立ちたい、という思いが強い世代です。それよりさらに若い世代は「成果志向」、つまり「ちゃんと仕事をして成果を出したい」という指向が強いようです。一方ではタイパやコスパを重視するので、先行世代の働き方を見て、「なんでこんな面倒なことやっているの?」というのもよく聞く話です。
Z世代の人たちが、これからの社会を牽引していきますから、その価値観は大事にしていかないといけないと思いますし、さらにその次の世代の考え方にも注意を払う必要があると言えそうです。どのように彼らが働きやすい状況を作っていくか。そのことを経営者としても考えていかなければならないでしょう。
オフィスづくりに関しては、これまでは経営者の意向でオフィスがデザインされていたと思いますが、これからは働く人がどうありたいのか、を起点としてオフィス空間のあり方を考える必要があるのではないか、と思います。
※『2030年「はたらく」の未来予想」については、コクヨお客様相談室へお問い合わせ下さい。
シンガポールに見る「はたらく」のデザイン
(Acall株式会社 代表取締役 長沼斉寿)
Acallは「くらし」と「はたらく」を自由にデザインできる世界の実現を標榜する、ワークテックの会社です。
具体的には、ハイパフォーマンスを実現するファシリティ体験を提供する、という「場所」に関わる事業と、ハイパフォーマンスを実現するピープル体験を提供するという「人」に関わる事業を進めています。
私たちがシンガポールに着目しているのは、国としてスマートネーションを推進するなど、日本より一歩進んだ取り組みをしている点。そのさまざまな取り組みの中から、日本でも活用できるところがあるのではないかと考えています。
今シンガポールでは、「スマートFM(ファシリティ・マネジメント)」という名称で、政府がこれからのスマートオフィスのあり方をガイドラインとして公開しています。
ファシリティという観点と、そこに必要なITテクノロジー、それを融合させたガイドラインで、200ページぐらいあるリッチな内容です。
背景にあるのは、資源がないシンガポールは、人を活用しなければ発展がない、ということです。それは日本も条件としては同じですが、国の発展のために人的資本をいかに中長期に生き生きと長く働き続ける環境を作るか、ということ。それを企業任せにせず、国が主導して実践しています。このような取り組みには、日本とは違うスピード感がある、とシンガポールにいると痛感します。
そのような取り組みは企業だけではなく、地域コミュニティでの取り組みへと進化しています。北部のプンゴルという街は「デジタル・ディストリクト」として、企業の内と外、さらにはエリア全体をつなぐ実験をしています。
「オープン・デジタル・プラットフォーム(O D P)というO Sを開発して、それをハブとしてさまざまなセンサーや駐車場、建物の中の施設などを繋いでいます。これを先進事例のレファレンスとして、他の場所にも移植しようという動きになっているのです。
これらが「場」にまつわる事例とすると、一方で「人」に目を向けた動きもあります。
今年12月から「フレキシブル・ワーク・アレンジメント」というガイドラインがスタートしますが、これによって「自宅とオフィスを組み合わせたハイブリッドでの勤務」「出退勤時間を柔軟に変更できるフレックスタイム制」「ジョブシェアリングやパートタイムなどさまざまな業務量とそれに見合った報酬での勤務」を従業員の方から会社に申請できるという仕組みです。会社としては拒否することもできますが、それには「合理的な理由」があることが認められなければなりません。
企業がはたらき方を決めて、それを強いる、というのではなく、個々人の納得感のあるはたらき方を保証する、という画期的な試みです。
サステナブル(持続可能)なはたらき方とワークプレースのあり方に目を向けたこうしたシンガポールの取り組みは、日本でも活用できるところが大いにあるのではないでしょうか。



