経験学習サイクルは、仕事の経験を通して学び、成長するという考え方。しかし、経験を通して身につけたマイセオリーは、いつまでも効力を発揮し続けるわけではありません。変化の激しい時代ですから、経験学習の有効期限は、さらに短くなっています。ここで重要なのが「アンラーニング」です。アンラーニングは、経験学習を通して成長し続けるために不可欠なアクションと言えます。
「勝ちパターン」はいつまでも通用し続けるわけではない
ここまで3回にわたって説明してきた通り、経験学習は成長のために、とても有効な考え方です。
ただ、経験学習で得られたセオリー、つまり自分なりの勝ちパターンは、いつまでも通用し続けるわけではありません。いつか、効力を失います。今回は、そのことを考えてみたいと思います。
仕事で成功体験を味わうと、人はそれにしがみつき、何度もそのパターンを繰り返すことになりがちです。成功体験を繰り返すことは自然なことですが、それには「有効期間」があることを忘れてはいけません。
仕事を取り巻く状況や環境は目まぐるしく変わっていきますから、いつまでも成功パターンが続くわけではないのです。
成功パターンにしがみついていると、いつまでもその「やり方」にとらわれてしまいます。いつまでも「過去の栄光」を語り続けるミドルやベテランがいますが、それは新しい考え方を取り入れることができないことの裏返しではないかと思います。
過去の成功体験が忘れられず、既存の慣習や方法論にしがみつくような状況を「コンピテンシートラップ」といいますが、経験学習の怖さは、そこにあります。
だから、固着してしまわないように、そこを常にほぐしていかなければなりません。これが「アンラーニング」であり、日本語では「学びほぐし」などと呼ばれています。
仕事の信念とルーティンを経験学習の中で意識する
先日、看護学校の先生を対象に経験学習のセミナーを実施したのですが、先生方は「去年の学生にはこのやり方でよかったけど、学生は毎年変わるから、同じやり方をしたらダメなんです」とおっしゃっていました。これは、まさにアンラーニングの必要性を指摘したコメントです。
とはいえ、いつもいつも仕事のやり方をガラッと変えるわけにはいきません。必要なのは、状況変化に合わせて、自分のやり方を検討し直して改善していくことです。そんな風に修正を試みながら、あるところでガラッと変えなければいけない時期が来るはずです。
いろいろなケースがありうると思いますが、自分の仕事のアプローチが「以前ほど有効ではなくなってきたかもしれない」という気づきがアンラーニングにとって重要になります。
仕事を進める上で、人は、「仕事はこうあるべき」という信念と、「仕事はこうして進めるべき。というルーティン、すなわち業務の手続きや手順、情報の取り方のパターンを持っています。そうした「信念」や「ルーティン」を経験学習の中で意識する、ということがポイントでしょう。
そのような過程で、「良いもの、有効なもの」は捨てる必要がなく、継続していけばいいでしょう。例えば、「部下を大事にする」とか「信頼する」などは、変える必要がない信念です。
これに対し、環境や状況の変化に応じて変えたほうがいいかもしれない信念やルーティンについては、自身の仕事を内省するときに思い当たるはずです。そのように、アンラーニングすることはないか、と考えながら「経験→内省→教訓→応用」という経験学習サイクルを回していく必要があります。
このときに、やはり他者と対話をすることで学びほぐしがしやすくなるでしょう。自分のことは、なかなか自分では気づかないものです。
「勝ちパターン」はいつまでも通用し続けるわけではない
ある企業では、ミドル・マネジャーに昇進して間もない人たちを集めてアンラーニングを促す研修を実施したそうです。自分のマネジメントスタイルについて振り返り、対話をしながら課題を見出していく、という研修です。このような忌憚のない対話ができるコミュニティは、とても大事です。
その対話を通して、多くのマネジャーが直面する共通の課題が明らかになりました。それは「仕事をメンバーに任せられない」という問題です。つまり、管理職になる前には自分で仕事を進めていた人が、管理職になっても、そのやり方をアンラーンできずに、「部下に任せずに、自分が手を出して」いたのです。
なぜ任せられないか、という要因については、「業績を出さなきゃいけない」「メンバーを信頼していない(なんでこんなにできない奴ばかりここに来るんだ!)」「ついついメンバーと競争してしまう」など、いろいろなものが浮かび上がりました。
では、どうすれば任せられるようになるのでしょうか。その課題を乗り越えるパターンとして、「メンバーを知ること」が上がりました。ただ、メンバーに対して「なんでも言ってきて!」と言ったところで、誰も来ません。そうではなく、メンバーに任せるのがうまい人は「ちょっと話を聞きたいんだけどさ」と自分から近づいていくことがわかりました。
もう一つのアプローチは、第1回でも説明しましたが、「メンバーの強みを知る」ことです。弱みや課題ばかりに着目するのではなく、いかに強みを見出して、それをより発揮させるか。強みがわかれば、自ずと仕事を任せられる、ということです。あるマネジャーは、部下にNGレッテルを貼っていたことを止め、部下の強みを探り、それが発揮できるような仕事を任せるやり方に変えるというアンラーニングをしていました。
メンバーを知る、その強みを知る。そのために、自分からメンバーに近づいて行って話を聞く。このような気づきは、自分一人で内省しても、なかなか生まれないかもしれません。対話によってリフレクションすることは、マネジャーのアンラーニングには有効です。まずは、気の合うマネジャー同士が勉強会のように集まり、経験学習サイクルを回しながらアンラーニングしてはどうでしょうか。
経験学習サイクルを回し続けるためには、節目節目でアンラーニングを実践する必要があります。つまり、経験学習とアンラーニングを組み合わせることで、環境変化が激しい中でも成長し続けることができるようになるのです。
松尾睦(まつお・まこと)
青山学院大学経営学部教授 / 北海道大学名誉教授
小樽商科大学商学部卒業。北海道大学大学院文学研究科(行動科学専攻)修士課程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。博士(学術)。英国ランカスター大学にて、Ph.D.(Management Learning)取得。主な著書に『経験からの学習』(同文舘出版)、『「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)、『成長する管理職』(東洋経済新報社)、『経験学習リーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『仕事のアンラーニング』(同文舘出版)などがある。


