経験学習サイクルで「メンバーを成長させる方法」vol.3

経験から学ぶ力を高める3つの要素「ストレッチ、リフレクション、エンジョイメント」。これを支える原動力になるのが「思い」と「つながり」です。今回は、仕事をする上で大事にしている考え方や価値観である「思い」と、他者との関係性を指す「つながり」について説明します。

「思い(信念)」のありようによって学びの質が変わる

経験から学ぶ力を一言で説明するとつぎのようになります。

適切な「思い」と「つながり」を大切にし、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる。

『「経験学習」入門』ダイヤモンド社2011

「挑戦=ストレッチ」「振り返り=リフレクション」「楽しみ=エンジョイメント」の循環によって、経験から学ぶ力は身につき、発揮されますが、これら3つの力の原動力となるのが「思い」と「つながり」です。まずは「思い」について説明します。

「思い」とは、仕事をする上で大事にしている考え方、信念、価値観を指します。

仕事経験を積んでいくと、自分なりのやり方や考え方が身につき、「日々の仕事はこうあるべき」という仕事への信念や価値観が形成されていきます。「仕事の信念なんて大げさなものは持っていない」と言う方もいるかもしれませんが「自分が仕事の中で大事にしていること」と言えば、多くの方が思い当たることがあるはずです。

仕事の信念としての「思い」は、自分を取り巻く世界をどのように見るかを決定するフィルターの役割を果たしたり、態度や行動を方向づけることで、学習活動にも影響を及ぼします。信念のありようによって、学びの質が変わるということです。

「自分への思い」と「他者への思い」

ただ、信念としての「思い」が強ければ必ず成長するわけではない、ということには注意しなければなりません。その「思い」が適切であるかどうかが問題になります。

適切で正しい「思い」とは、自分のことを大切にすると同時に、他者のことを大切にしながら仕事をしたいという「思い」です。

例えば、営業マンとして会社でトップクラスの業績を上げて評価されたい、と望むことは仕事をする上で自然な「思い」ですが、それだけでは自分だけの思いにすぎません。それに加えて「お客さんに喜んでほしい」という他者への「思い」があるなら、成長へのエネルギーはより強いものになるでしょう。

これは、単なる精神論ではありません。

プロフェッショナリズム研究によれば、高度な知識やスキルを持つと同時に、他者に奉仕することに意義を感じることが、プロフェッショナルの条件になります。つまり、「自分への思い」と「他者への思い」の両方を持っている人がプロフェッショナルといえます。

加えて実証研究の結果もあります。私がこれまで行ってきたさまざまな職業に就く方々の仕事の信念についての調査データを分析すると、「自分への思い」と「他者への思い」に関する信念が抽出されます。

自分への思いとは、自分の目標を達成したい、周りの人から認められたい、プロとしての力を身につけたいという信念です。一方、他者への思いとは、仕事上の相手に喜んでもらいたい、相手と信頼関係を築きたい、社会の役に立ちたいという信念です。

優れた人材、成長している人材の特徴は、「自分への思い」と「他者への思い」の両方を持っています。では、なぜこれら2つの「思い」がストレッチ、リフレクション、エンジョイメントを高めるのでしょうか。

自分への「思い」が強い人は、自分のために高い目標にチャレンジし(ストレッチ)、自分の「思い」をモノサシとして経験を振り返り(リフレクション)、「思い」に沿った仕事をするときやりがいを感じます(エンジョイメント)。

一方、他者への「思い」が強い人は、他者に喜んでもらうために高い目標にチャレンジし(ストレッチ)、他者からのフィードバックをもとに振り返り(リフレクション)、他者から感謝されることで自分の仕事の意義を実感します(エンジョイメント)。

このように、自分への思いと他者への思いは、経験から学ぶ3つの力を押し上げ、成長のためのドライバーになるのです。

これら2つの思いは、どちらが上ということはなく、相互に補完的な関係にあります。「他者のために頑張ることが、自分の成長につながる」「自分が成長することで、結果的に他者の役に立つ」という関係が見られるのです。

「つながり」から得られる3種類の支援

仕事への「思い」は成長をドライブしますが、この「思い」に影響を与えるのが、他者との「つながり」です。同僚、上司、先輩、お客さん、取引先、友人・知人といった他者との関係を通して成長し、仕事への思いが醸成されていきます。

また、人は、他者に背中を押されることで挑戦しようとする気持ちが高まり(ストレッチ)、他者との対話を通して経験の振り返りが深まり(リフレクション)、他者からの承認や励ましによって仕事の喜びを感じます(エンジョイメント)。

キャリア研究者のヒギンズとクラムは、個人の成長に影響を与える啓発者との関係を「発達的ネットワーク(developmental network)」と呼んでいます。啓発者とは上司、同僚、先輩、友人など、個人の発達を促す幅広い他者を指します。彼らの研究によれば、啓発者との関係が強いほど、また多様な啓発者と関係しているほど、個人の成長が促されます。この発達的ネットワークこそが「つながり」であるといえるでしょう。

クラムらによれば、多様な人と強くつながっている人ほど、①キャリア上の支援、②心理的支援、③ロールモデリング、という3種類の支援を得ています。

① キャリア上の支援は、仕事上のアドバイスや、異動や昇進昇格の際の後押し、挑戦的仕事の提供などを含みます。
② 心理的支援は、同調や共感、励ましと感情面のサポート、気晴らしなどです。
③ ロールモデリングには、見習うべき行動、仕事をする上での倫理観や価値観のモデル、反面教師などが含まれます。

「つながり」を通し、このようなさまざまな支援を受けて、人は知識・スキルの獲得や気づきを得て、責任を自覚し、成果を上げ、昇進したりキャリアを転換するのです。

では、自分の成長を後押ししてくれる他者と良い関係を結ぶためには、どのようにすればいいのでしょうか。

マネジャーに対するインタビュー調査を分析すると、多様で深い発達的ネットワークを構築するために、「職場外から率直な意見を聞く」「人を選び、誠実につきあう」「自ら発信し、相手を受け入れる」という行動をとっていることがわかりました。

つまり、職場だけでなく、日常的に仕事を共にしていない他部署や外部の人と、情報をやり取りしながら損得を超えた関係を築き、積極的に自分の意見を発信する人ほど、「幅広い視点からのフィードバック」や「本音で語られる、率直で本質的なフィードバック」を得ることができます。

このような「つながり」は、適切な「思い」を醸成し、人がより高い目標に挑戦し(ストレッチ)、自身の行動を振り返り(リフレクション)、仕事のやりがいや意義を見出す(エンジョイメント)を促してくれるのです。

(取材・文)間杉俊彦

松尾睦(まつお・まこと)

青山学院大学経営学部教授 / 北海道大学名誉教授

小樽商科大学商学部卒業。北海道大学大学院文学研究科(行動科学専攻)修士課程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。博士(学術)。英国ランカスター大学にて、Ph.D.(Management Learning)取得。主な著書に『経験からの学習』(同文舘出版)、『「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)、『成長する管理職』(東洋経済新報社)、『経験学習リーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『仕事のアンラーニング』(同文舘出版)などがある。

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