経験学習サイクルで「メンバーを成長させる方法」vol.2

経験学習サイクルについて、前回はその基本的な考え方と、育て上手のマネジャーがどのようにメンバーの経験学習を促す指導をするか、について説明しました。第2回は、経験学習サイクルがよりよく回るための基本について、さらに詳しく解説します。

経験から学んで成長するための3条件
「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」

前回のおさらいから始めましょう。

デビッド・コルブ氏が提唱している経験学習サイクルによると、人は①「具体的な経験」をし→②その内容を「内省し(振り返り)」→③そこから「教訓」を引き出して→④その教訓を「新しい状況に適用する」ことで学んでいます。

このサイクルを適切に回すためには、次の3つの力が必要です。

1. ストレッチ(挑戦する力)

「ストレッチ」とは、与えられた仕事の目標値を引き上げることを指します。同じような仕事が与えられても、「ここまで頑張りたい」と高い目標を掲げる人もいれば、「このくらいやれば文句言われないだろう」とそこそこの目標を設定する人もいます。つまり、自分の中で目標レベルを高くすることで、チャレンジングな経験にすることができるのです。

2. リフレクション(振り返る力)

「リフレクション」とは、経験したことを振り返る力です。せっかく挑戦的な仕事をしていても、他者のせいにばかりする「他責型」や、自分を責めてばかりいる「自責型」の振り返りでは、経験から適切な教訓を引き出すことはできません。「状況、自分、他者」というバランスのとれた視点から、俯瞰して経験を振り返ることができるかという点がポイントになります。

3. エンジョイメント(楽しむ力)

3つ目の「エンジョイメント」は楽しむ力です。ただし、「面白おかしく仕事をしましょう」という意味ではなく、自分の取り組む仕事にやりがいや意義を見つける姿勢を指しています。一見つまらなそうな仕事であっても、いろいろな視点から仕事をとらえ直し、面白さを掘り起こす力です。 


これら3つの力は、互いにつながっています。つまり、挑戦的な仕事に取り組むほど(ストレッチ)、高い壁を乗り越えるために仕事を振り返る必要があり(リフレクション)、振り返る中でやりがいや意義を感じやすくなる(エンジョイメント)といえます。

エンジョイメントを高めるための3つの「方略」

ストレッチとリフレクションが仕事を通じた成長に必要な条件であることは、理解しやすいと思います。しかし、高い目標に挑戦して内省するだけだと、「ストイックな修行」のようになりかねません。へたをすると燃え尽きてしまいます。そこでエンジョイメントが必要になります。このエンジョイメントによって仕事に対する自信がつき、さらなるストレッチへの動機づけが高まる、という好循環が生まれます。

ただ、どうしたらエンジョイメント力を高めることができるでしょうか。パフォーマンスが高く、成長し続けている人材は、次のような姿勢で仕事をしていました。

  1. 集中し、面白さの兆候を見逃さない
  2. 仕事の背景を考え、意味を見いだす
  3. 達観して、後からくる喜びを待つ

この3つの方略について、それぞれ順を追って説明しましょう。

1. 集中し、面白さの兆候を見逃さない

ある企業のマネジャーは、次のように語っています。

イヤなことでも集中して続けていると、面白いとか面白くないとかの境界があいまいになり、肯定的な変化が起こります。なんだか楽しくなる瞬間や、『これはなんだろう?』という意外な発見です。

こうした「兆候」を逃さずに深掘りすると、つまらないと感じていた仕事にも取り組みがいが出てくる。これがエンジョイメントにつながります。

2. 仕事の背景を考え、意味を見いだす

ある人材系企業では、国の機関から書類の封入作業を受託しました。しかし、見積もりの計算違いでアウトソーシングできず、自分たちで大量の封入作業をせざるを得なくなりました。絵に描いたような単純作業ですが、スタッフは効率的な作業工程について徹底的に考えて工夫しました。その結果、徐々に作業スピードが上がり、予定した期日より大幅に早く完了することができました。

単調な定型的作業であっても、仕事の意義や背景を考え、内省しながら取り組むことでエンジョイメントを実現し、成果も上げたという事例です。

3. 達観して、後からくる喜びを待つ

米国に4年半駐在した経験を持つあるマネジャーは、次のように振り返っています。

「米国では、それまで日本で体験できなかった多くの学びがあり、自分を成長させてくれた4年半の駐在でしたが、そのときは無我夢中で、終わった後に達成感や楽しさを感じました」

渦中にいるときには、取り組んでいる仕事の価値や自分にとっての意義を客観視する余裕がない。このようなことは多くの人が経験していることではないでしょうか。

また、経験豊富なヘッドハンターは次のように述べています。

『サラリーマンとはこういうものだ』と腹をくくり、達観できる人は伸びます。

腹をくくり、覚悟を持って臨めば、成長のための根っこができるんです。

「達観」というのは「あきらめ」とは違います。「目の前の事象にこだわらないこと」「現実を直視し、物事の本質を見通すこと」を意味します。


こうした3つの方略が示しているのは、エンジョイメントを高めるカギは、「意味の発見」にあるということです。

「はじめから面白い」という仕事は、そうあるものではありません。達観して仕事に取り組み、集中する中で、面白さの兆候を見逃さず、仕事の背景を考え、自分なりの目標を再設定するとき、エンジョイメントは高まり、やりがいを見いだすことができる、と言えるでしょう。

以上のように、「挑戦=ストレッチ」「振り返り=リフレクション」「楽しみ=エンジョイメント」の循環によって、経験から学ぶ力は身につき、発揮されます。

実は、こうした3つの力を高める原動力があります。それが、適切な「思い」と、他者との「つながり」です。つまり、「こうなりたい、こうありたい」という強い思いを持ち、自分を応援してくれる他者と適切な関係を持つ人ほど、ストレッチ力、リフレクション力、エンジョイメント力が高いのです。

次回は、この「思い」と「つながり」について説明します。

(取材・文)間杉俊彦

松尾睦(まつお・まこと)

青山学院大学経営学部教授 / 北海道大学名誉教授

小樽商科大学商学部卒業。北海道大学大学院文学研究科(行動科学専攻)修士課程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。博士(学術)。英国ランカスター大学にて、Ph.D.(Management Learning)取得。主な著書に『経験からの学習』(同文舘出版)、『「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)、『成長する管理職』(東洋経済新報社)、『経験学習リーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『仕事のアンラーニング』(同文舘出版)などがある。

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