コロナ後のリモート、あるいはハイブリッド環境でコミュニケーション不全に陥る組織は少なくありません。この新しい職場、新しい働き方において、どうすれば「対話のあるいい組織」を作ることができるでしょうか。ここでも「組織開発」が、そのカギになりそうです。実践経験の豊富な組織開発コンサルタントである早瀬信さんにうかがう、第3回目です。
仕事における日々の小さなディシジョンは
上司の顔色を見ながら決めていることが多い
キヤノンで組織開発コンサルタントとして仕事をし、私がいろいろな部門を見てきて感じるのは、基本的に組織だとかチームというのは、責任者がどういう振る舞いをするかによって状況が変わる、ということです。
その当時は、すべて対面で仕事をしていたわけですけれど、「扇のかなめ」である責任者がゆらゆらしていると、全体がゆらゆらしてしまう、という話です。どのような業種であれ、私たちが仕事をする上では、小さなディシジョンを各自がしています。毎日毎日、みんなが小さな決め事をしながら仕事は進んでいきます。その時のモノサシというか判断基準というのはどこからきているか、ということです。
そうすると、けっこう上司の顔色を見ながら決めていることが多いと思うのです。完全に標準化されていて、100%マニュアル化された業務をやっているのなら、その通りにやればいいのですが、実際はそうではない仕事の方が圧倒的に多いわけです。そのときに、「これをやったら●●部長はどういう顔をするだろう」というのが、実はけっこう判断基準になっている。
そうすると、その部長とか課長のパーソナリティに、かなり仕事の進め方が依存してしまう。これをやったら嫌な顔をされるな、と思ったら、綱引きの力が弱くなる。前に説明したプロセスロスが、そういうところに出てくるのです。
やる気やエンゲージメントなど、
「氷山モデル」の一番下の層はリモートでは伝わりにくい
リモートワークやハイブリッドワークの場合、そういう部長や課長の表情や顔色がわかりません。大部屋で仕事をしていると部長なり課長はその島の端の方にいるので、今日は機嫌が良さそうだな、みたいなことが伝わってくる。そうすると、「今日はちょっと無理も通せるかな」と思ったりする。逆に、無理を通せないような顔をしていることもあるわけです。とすると、判断基準が変わってしまう。
「組織風土は上司の性格」という言葉を先輩から聞いたことがありますが、確かにそういうところがあります。前にご説明した「氷山モデル」の一番下の層、やる気だとかエンゲージメントだとかモチベーションとかは、全部この層に属することです。それが、リモートになったときに伝わりにくいということが現象として起きていると思っています。
リモートでは、丁寧にこの一番下の層の共有だとか気持ちのすり合わせなどをすることが難しい。その時間を確保すること自体も、たやすくはありません。例えば、すれ違いざまに短く言葉を交わすような場面を想像すればわかりますが、対面の方がはるかにやりやすいのです。
コロナの初期の頃に、働く人の孤独感が問題視されるようになったときに、「普通の定例ミーティングの前に雑談の時間を設けよう」みたいなことが工夫されて始められていましたが、要はそういうことですね。
オンラインで話をしているとみんなの上半身だけしか見えませんし、かつ会議が終わったらプツンと映像が切れてしまう。つまり「のりしろ部分」がない、ということはよく言われています。ですから、雑談の時間のように、あえてのりしろを作るような工夫が必要です。
工夫次第でリモートでも組織開発は実践できる
リーダーシップ論の第一人者であるジョン・コッターは、「会議室の中で行われていることがマネジメントで、会議室を出て廊下で行われているのはリーダーシップだ」と本の中で語っています。多くの場合、廊下で事前に「これちょっとお願いします」というのが終わっていて、会議室では議事録が取られちゃうから割と硬く話す。この使い分けが起きているのですが、オンラインだと、この場合でいう「廊下」のファンクションがありません。
そんな「のりしろ」「廊下」がない、ということの一番の問題点は、課長、部長の今日の気分がわからないことです。それがすごく大きいと思います。
上司の顔が見えないことで、変なプレッシャーにさらされずに済む、といういい面もありますが、上司の期待に応えようと120%のプラスアルファのあるアウトプットをしなくなるかもしれません。「顔色をうかがう」というのはネガティブな面だけではないと思います。
「氷山モデル」の、水面から一番低いところを大切にしなければチームは良くなりません。そこがほったらかしになりやすいのが、リモートワーク、ハイブリッドワークの特徴なのではないでしょうか。
あえてのりしろ部分を意識して、対話の頻度を上げることがリモートワーク、ハイブリッドワークには必要でしょう。対話の機会さえ設けることができれば、やるべきことは一緒です。一人ひとりが何を思っているのか、何にモヤモヤしているのかを、対話をしながらみんなで確かめ合っていくこと。「①見える化」し「②ガチ対話」をして「③未来づくり」に向けて実践と振り返りを重ねていく。
対面、電話、メール、ZOOMやTeamsをはじめTV会議系のシステムなど、さまざまなコミュニケーションの手段がありますが、どの媒体であっても相手の思い(氷山の最深部に近い部分にあるもの)を意識して対話することが大切です。要はツールではなく、意識の差で対話の成否は決まる、ということだと思います。
早瀬信(はやせ・まこと)
組織開発コンサルティング会社セセリー代表
早稲田大学理工学部卒業後、キヤノンに入社し、マーケティングなどに従事。退職後も続けられるスキルを得るため、社内異動を希望し組織開発コンサルタントとなる。約11年のコンサル実践、のべ2000人以上の指導経験を持つ。定年退職後に独立。特定手法に依存せず、組織状況に寄り添う柔軟な組織開発を行う。共著として『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』がある。


