職場のモヤモヤを軽くする「組織開発」をどう進めるか vol.2

組織に潜む問題や課題を明らかにし、それを改善して良いチームをつくるための活動である「組織開発」。その活動は、職場内での対話によって進められます。『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(ダイヤモンド社2023)の共著者であり、実践経験の豊富な組織開発コンサルタントである早瀬信さんに、組織開発の進め方を聞きました。

誰かが感じたモヤモヤを話し合いのテーブルに載せて
みんなで真因を考え、解決のための手立てを考える

組織開発は、始まりからゴールまで、すべての過程が「対話」によって進められます。

前回説明したように、組織の問題や課題は必ずしも見えやすいものばかりではなく、しばしば見えにくくわかりにくいものです。だから、組織のメンバーはモヤモヤしたものを感じるのです。

組織の問題や課題を解決するために、これまでであれば(今もそうしている組織が多いと思いますが)経営陣が新たなルールをつくる、制度を設けて対応する、ということが主流だったと思います。それは間違ったアプローチだとは言い切れませんが、必ず課題解決に成果をあげるわけではありません。

今、多くの組織が抱える課題は、より複雑になったビジネスのあり方や職場の変貌に根ざすものが少なくないでしょう。前回述べたように、デジタル環境の急速な変化、進む「個業化」、職場メンバーの立場の多様化、さらには経済性の追求だけではない価値観の台頭など、さまざまな変化の中で、問題や課題はさらに解決が難しくなっています。そこに人のやる気のような気持ち系の問題も加わりますから、ルールや制度ではなかなか対応しきれません。

そこで、誰かが感じたモヤモヤを話し合いのテーブルに載せて、みんなでその原因を考え、解決のための手立てを考える「組織開発」が有効なのです。

組織開発とは、現場にいる人たちが自ら、人と人との関係性を通して組織内の違和感のあるプロセスを見直し、より良い組織をつくる活動、と言えます。

組織開発研究の第一人者である中村和彦・南山大学教授と、人材開発の研究者である中原淳・立教大学教授の共著である『組織開発の探究』(ダイヤモンド社2019)では、組織開発のステップを「①見える化」「②ガチ対話」「③未来づくり」という卓抜な表現で示しています。

同じ現象を目にしても、人はそれぞれ異なる「認知」をします。その違いを明らかにして当事者同士で共有するプロセスに「①見える化」は大きな力を発揮します。複雑に絡み合った糸をほぐすためには、糸と糸がどう絡んでいるのか把握しないと上手にほどくことはできません。職場の問題は糸よりもっとやっかいな人の価値観や気持ちなども絡んできます。それらをほどくためには、頭の中にあることを言語化して共有する「①見える化」が必要なのです。

氷山モデルでいう水面に近い方の事象についても「①見える化」して共有することは必要ですが、もやもや度の高い難しい問題を解決するには、水面下深く潜って「①見える化」する覚悟が必要かもしれません。

見える化によって、絡んだ状態を共有できても絡み方が複雑すぎると手の打ちようがないと思われることがあります。そんなとき具体的な対策として何を優先して対策するか?をみんなで考えるのが「②ガチ対話」です。

職場では立場の違いによってその優先順位について意見が分かれるのが普通です。そんなとき忖度がはたらいて誰かが黙ってしまうような対話では、表面的な対策しか実施できずに根本的な解決に進めないかもしれません。「②ガチ対話」の「ガチ」は、人の顔色を気にせず本音の対話が必要だという意味で使われています。

「③未来づくり」は「行動計画」と「実践と振返り」と説明した方がわかりやすいと思います。リアルな現場ではこれがなければ、「会議ばかりで何も変わらない」という状態に逆戻りです。計画的な行動の結果、業務成果や人と組織の成長が得られれば、組織開発は第1段階として成功です。

そして当事者がこの成功体験からご利益を得て、①~③の組織開発プロセスに意義を感じられれば次の課題にチャレンジするエネルギーになります。学術的にはこれを「自律的革新力」と言いますが、前回記事では、より簡単に「継続性」と呼びました。

以上の3ステップは中村先生と中原先生による造語ですが、組織開発の本質を示すものと言えるでしょう。

ポジティブなテーマを設定し
一人ひとりの気持ちなどにも注目して掘り下げていく

ここで「対話とは何か」について説明する必要があるかもしれません。組織開発の文脈で使われる対話の目的は「関係づくり」です。組織の課題の多くは「正解」があるわけではありませんから、AかBかを決める「議論」ではなく、対話を重ねるということになります。

良い関係づくりをすること、言い換えると「関係の質」を高めることが実りのある対話の前提です。ですから、対話の環境づくり(場所の選定や設定など)や、原則となるルールづくりが欠かせません。安心安全に対話ができる環境とルールを組めるのですが、これには組織やチームによってさまざまなやり方があり得ます。会社の会議室に集まってもいいですし、あるいは職場から離れた場所で行うオフサイトミーティングというやり方もあります。

対話には必ずテーマを設定します。みんなが感じるモヤモヤをそのままテーマにしたり、話し合いの「狙い」をよく考えたテーマを設定したりします。前者の場合、例えば「良いチームって何だろう?」という問いかけが効果的かもしれません。より自由な話し合いをするには「私たちの50年後のありたい姿は?」など、創造を促すような問いかけをテーマにすることもあります。

テーマは「なぜダメなんだろう」というネガティブ(否定的)な問いかけではなく、ポジティブ(肯定的)なものがいいでしょう。問題が明確な場合は、基準と現状のギャップに焦点を当てることも有用ですが、モヤモヤの正体を探るような組織開発では、言い訳が並んだり、責任追及型の話し合いになってしまう恐れがあります。

組織開発の対話では、テーマに関する事実や考え方、アイデア、それに対する一人ひとりの気持ちなどにも注目して、時間をかけて掘り下げていきます。

組織開発では、異なる意見が出ることは良いことだ、と考えます。正解を求めるための問いではない、ということを共有しながら話し合いを進めます。このとき、話し合いの雰囲気や状態に対するフィードバックを行うファシリテーターがいると、実りある対話が進めやすくなります。

このような対話の現場でしばしば起こるのが、「声の大きい人」「偉い人」が最初のひと言を発することで、場の空気が決まってしまうことです。その場合、「声の大きい人」「偉い人」に合わせた意見しか出てこなくなります。

これを避けるために「自分の考えを紙に書く」という方法が有効です。初めにテーブルの上に参加者全員の意見を載せる、ということです。このやり方ですと、新入社員でも思うところを伝えることができます。小さな声を拾い、順番に話を聞く、という流れを作ることもできます。

早瀬信(はやせ・まこと)

組織開発コンサルティング会社セセリー代表

早稲田大学理工学部卒業後、キヤノンに入社し、マーケティングなどに従事。退職後も続けられるスキルを得るため、社内異動を希望し組織開発コンサルタントとなる。約11年のコンサル実践、のべ2000人以上の指導経験を持つ。定年退職後に独立。特定手法に依存せず、組織状況に寄り添う柔軟な組織開発を行う。共著として『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』がある。

この記事をシェア

人気記事