働き方を小刻みにアップデートする重要性とは 

中長期的に若年人口が減っていく状況下で、働き方も変わらざるを得ません。昭和の名残の硬直した制度や慣行では、人を採用し、居続けてもらうことはできないかもしれない。では、最適な働き方と、それにふさわしいオフィスはどうあるべきなのか。オンラインを活用した新しい働き方、場所を通じた経験について調査と思考を重ねる関西大学 社会学部の松下慶太教授にお話をうかがいました。 

メディア・テクノロジーを使うと場所を超えて働くことができる

― 先生のご専門はメディア論ですが、ワーケーションなど働き方についても調査や研究をされていますね。 

松下 メディアやコミュニケーションがバックグラウンドになっていますが、いわゆるオンラインに注目しています。狭義のメディアではなく、メディア・テクノロジーの活用を前提とした場所のデザインとか、そこでの経験に関心があります。そこから、働き方や観光、ワークショップなどへと研究関心が広がってきました。 

パンデミックを経て、働き方がオフィスだけじゃなくて自宅でのリモートワークが普通になりました。そうすると、子どもの保育園のお迎えまでの間で少し時間がある時に、近くにコワーキングスペースが欲しいなとか、新しいニーズが生まれます。メディアの観点では、例えばオンライン上で、エンターテイメントとか普通のコミュニケーションと仕事のコミュニケーションが混ざっていく。リモートワークをするとサボるみたいな話もありますが、それは技術的な解決の仕方があるのか、それとも私たちのマインドの話なのか、組織カルチャーなのか、そういうことを考えていきたいと思っています。 

― 働き方の発展形を考えておられるということでしょうか。 

松下 今の働き方の発展を考えているという意識はあまりなくて、宇宙時代の基礎研究をやっているみたいな、そんなイメージでやっていますね。宇宙って、もう遠い話じゃなくなっているので、宇宙空間で働くことを考えると、必然的にリモートになるわけです。 

― 直近のご関心には、例えばどのようなものがありますか? 

松下 デジタルノマドのフィールドワークをしています。ラップトップを片手に、バリ島とかチェンマイとか、そこで6ヶ月とか1年とか住んで、旅をしながら働く人たち。パンデミック前からいるんですけど、働き方というだけではなくて、観光の延長でもあるので、いろんな国がデジタルノマド・ビザを発行するなど、誘致合戦が始まっていますね。スペインの港町にITのチームごと来ている人たちがいました。サーフィンが楽しめるし、家賃もサンフランシスコより安い。そこでサービスがローンチするまでアプリを作り、軌道に乗ってからアメリカに帰るわけです。仕事を持ってきているから、地域住民との仕事の取り合いは生じないし、観光で問題になる繁忙期と閑散期の凸凹がなくなります。メディア・テクノロジーを使って場所を超えて働くことには、このようなメリットをもたらします。 

一方では税金の話だったり、社会保障のタダ乗りみたいなこともあるので、これまで近代国家が作ってきた働き方、それに付随する制度や仕組みというのが、かなり揺さぶられている。また、デジタルノマドの人たちというのは、環境意識も高く、働きたいように働くので割とストレスも少ない。一方では孤独であるというストレスもあり、コミュニティや交流を大事にする。こうしたライフスタイルでありワークスタイルであるデジタルノマドを研究しています。 

これからのオフィスはレストランのような体験が重要に

― ワークプレイスについては、どのような問題意識をお持ちですか? 

松下 1つは都市型のオフィスですね。オフィスを会社の中でどういった場所として位置づけるのか。さまざまな方向性で議論がなされていますが、大きくは2つあって、1つはコミュニティのハブであり、もう1つは作業のスペースである。この2つを企業のビジネスのステージに合わせて作っていく。逆に、それを明確にしないと、「ただ机と椅子を準備しました」というだけだとなかなか難しい。 

メタファーですが、これからのオフィスはレストランです。レストランはキッチンとダイニングがあって、料理を楽しめる場所です。料理を作る場所としてのキッチンは、作業をする場所としての役割に加え、守秘義務やセキュリティも留意するオフィスに似ています。同時に、ダイニングはワイワイしながらお客様が楽しむ空間。オフィスも社員や外部から来た人が交流したり、滞在できる場所も必要なんじゃないかと思います。あるいは、オープンキッチンのように仕事をしているところがある程度見える、というのもいいかもしれない。フードコートみたいなこともあるかもしれない。食をどう経験するかという観点で言うと、栄養を取るのももちろん大事だけど、それ以外の楽しみも大事。トータルの体験を重視し、満足度を高めることが求められる点で似ていると思います。 

企業の中だけで生産性だとか設計をする限界というのが、パンデミックで露わになったというところかな、と思います。 

長期の人材獲得で重要性が増す働き方とQOLの提示

リモートワーク、ハイブリッドワークから、多くの企業が出社に戻ってきました、この先、働き方はどうなっていくでしょうか? 

松下 短期中期でいくと、東京一極集中の揺り戻しがくる、と思います。10年ぐらいのスパンでしょうか。問題はそこから先で、若年人口が減って、人手がないという時に、これは必ず破綻を迎えると思います。どういう破綻かというと、若者が東京に来ても、東京では幸せになれないことがわかってきた時にどうするの?ということです。これは現時点でもそうなんですけど、地方から東京に、仕事があるからと来ました、そこで子供を育てます、という時に、地域にそのままいる人と比較して、自分もそのままあの地域にいたらでかい家を買って車を持って幸せそうにしているはずなのに、なんで俺は東京でこんな生活をしているんだ、ということになってくる。 

このような不満がたまってくるので、企業がどこかの地方に行って、東京に出なくてもそれなりのQOLを維持して生活できるという、ワークスタイルではなくてライフスタイルの提示によって人材を確保しようとするところも出てくるでしょう。逆に言えばライフスタイルをうまく提示できないと人を確保できなくなる、ということがありえそうです。 

長期でいくと、シンガポールなりアメリカなど、日本の最優秀層が海外に抜かれていきます。もちろんそこで幸せになるかというと、収入は高いけれど大変だということがわかってくる。東京の方がいいんじゃないか、アメリカで給料をもらって東京で過ごしている方がQOLが高いかもしれない。そうすると、東京と地方の関係がスライドする形になります。東京の場合は、今までは人を集めてこれたけれど、スキルなど要求する水準に達する人材を地方から獲得できなくなった時に、どうするの?ということが10年後以降でしょうか。それが、東京の持つジレンマかもしれませんね。 

― 最適な働き方について、企業はどうすればいいでしょうか? 

松下 例えば、文房具やオフィス家具メーカーのコクヨは出社メイン、ハイブリッド、在宅みたいな3種類ぐらいを用意して、上司との相談した上で3ヶ月ごとに選べるようにしているようです。「うちの会社はこうだから」と順応させるこれまでのやり方ではなく、いくつかのメニューを作って、小刻みに変えるというのは一つのやり方かもしれません。コミュニケーション施策としての1on1は、大まかにキャリアとか仕事の進め方について話すことが多いと思いますが、そういうスタイルに関する1on1をやって、働き方を見直すきっかけというのを小刻みに作っていくのもいいかもしれない。 

そういう意味では時間軸がすごく短くなっている。今までは新卒で入った会社で定年まで基本的には一つの働き方を続けるということから、もっと1年とか3ヶ月みたいなところで、刻んで確認し、調整していくというのが、人事の大きな役割になっていくのかもしれません。今までだと会社のスタイルに合う人を選ぶのが人事でしたが、出社したい若手や、子供が小さく育児のためにリモートを中心にしたいなど、それらの働き方をどう組み合わせるのかが人事の大きな仕事になってくるのかなと思います。その多種多様な働き方の調整を人手でやるのは大変ですが、近年急速に進化している最新テクノロジーやAIなどをうまく活用できれば、その未来も近いのではないでしょうか。 

松下 慶太(まつした けいた)

関西大学社会学部 教授

1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員、ベルリン工科大学訪問研究員などを経て現職。専門はメディア論、ソーシャル・デザイン。近年はワーケーション、デジタル・ノマド、コワーキング・スペースなどメディア・テクノロジーによる新しい働き方・働く場所と若者、都市・地域との関連を研究。近著に『ワーケーション企画入門』(学芸出版社、2022)などがある。 

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