2022年2月に稼働を開始した電通デジタルの新オフィス。2019年2月に「ワークスタイル開発プロジェクト」としてスタートした取り組みでしたが、新型コロナウイルス感染症の広がりを受けて全社一斉での在宅勤務を余儀なくされるなどもあり、想定以上のスピードでワークタイルが大きく変化しました。この変化を受け、2020年4月からはオフィスを新しい働き方に対応したものへリニューアルすることの検討にも着手することとなります。その後、社内でどのような議論があり、どのようにプロジェクトが着地したのか。プロジェクトリーダーを務めた総務部長の飯野将志氏にうかがいました。
働き方の検証から始まったオフィスデザイン
ー オフィス・プロジェクトの発端を教えていただけますか?
2018年当時は会社が成長フェーズにあり、社員がどんどん増えていく状況にありました。それまでは、人が増えたら借り増ししてオフィススペースを広げていましたが、それには限界があります。弊社は電通との協業が多いので新橋・汐留エリアでの増床を検討していましたが、当時は都内のオフィス空室率が1%程度で、希望のエリアで必要なスペースを確保することができませんでした。
そこで、経営陣と話をして、「だったら増床するのはやめて現有スペース中でどう働くかを考えていこう。」という方針になったのです。つまりは、体質改善をしていこう、ということです。これを受け、前述の「ワークスタイル開発プロジェクト」が始まりました。
オフィスという場所から入るのではなく、働き方から入ったというのが一番の特徴だったと思います。「どう働くのか」を先に決めて、その時に「じゃあオフィスでは何をするの?」「だとしたら、オフィスのデザインはこうなるよね」という順番で議論しました。
ーコロナ前のお話だと思いますが、リモートワークについての受け止めはいかがでしたか?
「そんなことできないよ」とか「どうやってマネジメントするんだ?」といった意見もあり、なかなか社内の賛同が得られませんでした。とはいえ何人か理解者がいたので、彼らを集めて30人ぐらいで小さくPoC(Proof of Concept:概念実証。新しいアイデアや技術の実現可能性を検証すること)を行いました。2019年当時は東京オリンピックを控えて、東京都が推奨していた「テレワーク週間」というのがありました。そこに引っ掛けて「リモートワークを試してみよう」というテストをしたのです。
すると、「意外にいける」という話になり、2020年の初頭には200人にまで増やして2回目のPoCを実施しました。役員から新入社員まで幅広い対象で試して、とにかくエラーを出そう、と。どんなエラーが起きるのかを知るのがPoCだよね、という感じで実施したところでコロナに突入した、という流れでした。ですから、PoCの直後に、「全社一斉リモートワーク」が始まったわけです。
ただ、この「全社一斉リモートワーク」が、その後の弊社におけるワークスタイルやワークプレイスの検討に大きく影響を与えることとなります。特に経営陣の意識は大きく変化しました。それまでは、誰にリモートワークをさせるのか/させないのか、という議論が多かったのですが、そうではなくて、全社員がリモートワークを活用できることを前提に、成果や成長といったアウトプットでその人を評価していこう、という議論に変わっていったと振り返っています。
経営戦略の実現が加速するオフィスをどうつくるか
ー その後の議論は、どのように推移したのでしょうか?
さまざまな論点がありましたが、「Performance Based Workingという働き方を目指そう」ということに収斂していきました。目指すのはチームのパフォーマンスを最大化することです。僕らの目的は、クライアント企業の事業成長パートナーになり、クライアント企業の課題をいかに最短距離で解決するかであり、そのためには「何をやるのか」「いつやるのか」「誰が誰とやるのか」「どこでやるのか」を常に考え、どうすればチームのパフォーマンスが最大化するかを常に考えながら働こう、というものです。その考え方のもと、会社は、評価、報酬、勤怠などの「制度」を整備したり、ITやオフィスといった「ツール」をたくさん用意します。つまりは、「選択肢」をたくさん提供するということです。ただ、選択肢を用意するだけだと、みんな使い方がバラバラになって力が最大化されないので、パーパス、ビジョン、バリューなどをベースに「共感」を作ることで、自分がどの選択肢を選ぶことがチームの力を最大化するかを意識するようにしていくことも重要だと考えています。
ここからオフィスづくりに入っていくのですが、ワークスタイルが大きく変化したことで、ワークプレイスのポートフォリオが変わったので、「だったらオフィスを変えよう」ということになりました。
ー その際のポイントは、どのようなものでしたか?
オフィスづくりにおいて初期段階に経営陣にインタビューすることはよくありますが、彼らは経営のプロでですがオフィスのプロではないので、「どんなオフィスにしたいですか」ではなく、「この会社をどうしたいですか?」「経営戦略として今やるべきことは何ですか?」「会社として育てたいユニークさとは何ですか?」「社員が集まる意味は何でしょうか?」というような、根源的な問いを投げかけました。
その結果、経営戦略の実現を加速させるためには、「専門力」「統合力」「機動力」「信頼構築」という4つの力を強めることが必要であり、それらの力を強めることができるオフィスにしようと決め、そのコンセプトを「
Real empowers us. リアルな世界が、私たちを強くする。」と置きました。
ー「オフィスは何のためにあるのか」を問われたのですね
この間、社員への大規模なアンケートはしなかったのですが、唯一「これからは何をしに会社に行きますか?」ということだけアンケートで聞きました。すると、圧倒的な1位は「人と話す時にオフィスに行きます」というもの。では、どういう空間だと話しやすいのか。ここはすごく議論したところです。ちなみに2位は「ホワイトボードを使って話し合う」でした。確かに、それはリモートワークではできないことです。
結局、いま弊社は出社率が2割3割で、偶発的な出会いが起きにくくなっている。それよりも、今のオフィスに求められる価値というのは、しっかり意思を持って「何月何日に、この目的で、この場所に集まろう」みたいな場所になっていくんじゃないか、という整理をしました。それ以外はデジタルもあるしシェアオフィスも自宅もあるよね、ということです。
強めたい4つの力があるという時に、社員に期待する行動=「振る舞い」とは何か、ということも議論しました。その議論から抽出して、この16個の「振る舞い」にまとめました。
そのうちの色がついた12個がオフィスというリアル空間でより強まるだろう、こういうことが起きるオフィスにしていこう、ということです。

ー 新しい働き方を、かなり緻密に定義されていて驚かされます
例えば「機動力」を高めるためには「合宿」ができる場所がオフィスにあったらいいよねとなったのですが、この「合宿」という場所の空間イメージは人それぞれなので、このズレを早い段階で解消しておくことがその後のプロジェクトの進行において非常に重要となってきます。そのため、早い段階で、「写真で空間イメージの統一を図る」というステップを入れました。これを12個について実施しました。このフェーズを、私は「ワークプレイスエクスペリエンスの整理」と呼び、半年ぐらい時間をかけました。ここを丁寧にやったのは、非常に意義があったと思います。
そして設計に入っていくのですが、ここでは「図面を描かないコンペ」をしました。オフィスのプロジェクトというのは早い段階で図面を描くものですが、そうするとファースト・インプレッションがいいので、その図面のオフィスを作るプロジェクトになってしまうんです。そのため、図面は描いていただくことはせず、それまでに手掛けたオフィスの事例を見せていただいたり、普段どういった考え方で設計に取り組まれているかを聞かせていただいたりして、依頼する設計者を決めることにしました。
課題は「いろんな人と繋がる」ことをもっと促進していくこと
ー そのようにしてリニューアルされたオフィスの、働きやすさの特徴は何でしょうか?
一番大きいのは、選べるようになった、ということだと思います。リニューアル前は、本当に机と椅子があるだけ。それはそれで一つの答えだとは思います。組織変更が多い会社なので、頻繁に変更するわけにはいきません。そのため、画一的なデザインにすることで変化に対応しやすくしていました。それからすると、丸い机もあれば四角い机もあり、緑が多いエリアもあれば路地裏みたいな場所もあったり、自分で居場所を選んだりできるようになりました。それは働きやすさにヒットしているかなと思いますし、高評価をいただいています。
それと、「オフィスを変えて何に一番効きましたか?」と聞かれて、いつも答えるのは、採用ですね。そこはわかりやすいぐらい効果が出ています。最たる例が新卒採用。学生はそういうところを見ているみたいで、よく聞くのは「働くイメージが湧きました」という声です。
オフィスはリアルのための場所。その意味で、例えばソロワークの場所はあまりありません。もちろんあるにはあるんですが、ソロワーク席は壁を背にしています。壁に向いていると、一人で集中はできますが、声をかけづらいからです。壁を背にしていると、アイコンタクトができます。「今ちょっといいですか?」みたいに。「人と話す時にオフィスに行く」という、みんなの意見を反映させたわけです。
オフィスをリニューアルして2年が経過しました。制度やツールという選択肢が整備され「働きやすさ」は大きく向上した思う一方で、人と人のつながりの半径が小さくなったとも感じています。多種多様なプロフェッショナルが集う当社においてそれは非常にもったいなく「働きがい」や「誇らしさ」を薄めてしまっていると考えています。この状況を改善するべく、今はオフィスというハードに加えて、デジタルツールやイベントなどのソフトも用意することで、より多くの繋がりを生み出し、より太いつながりに育てていくことに挑戦しています。



