“出社すれば解決する”は本当か?──ハイブリッド組織が越えるべき“断層”とは

「それ、昨日オフィスで決まりました」
そんな一言に、少しだけ置いていかれたような感覚を覚えたことはないでしょうか?

ハイブリッドワークが定着したいま、「出社する人」と「しない人」は、多くの組織でほぼ固定化しています。ザイマックス不動産総合研究所の調査でも、出社率は77%が「変わらない」と回答しています【1】。

物理的な近さは、意思決定を速めます。一方で、その場にいなかった人には、背景や温度感が十分に共有されないまま物事が進んでいく。こうして静かに生まれるのが、組織の“断層”です。

問題は、断層があることではありません。 それが離職や評価、意思決定の質にどんな影響を及ぼしているのかを、定量的に把握しづらいことにあります。 新年度のリズムが落ち着くこの時期。 見えないまま放置されている断層がないか、いま一度問い直してみませんか?


断層が及ぼす、3つの経営インパクト

ではその「断層」は、実際の働き方にどのような影響をもたらしているのでしょうか。

🔄 インパクト1:リテンション危機

Owl Labsの調査では、柔軟な働き方が失われた場合、40%が転職活動を始めると回答しています【2】。一方でCiscoの調査では、83%が「リモートワークはロイヤルティ維持に不可欠」と回答し、週1回の出社設計でリテンションが向上した例も報告されています【3】。
ここから分かるのは、問題は出社かリモートかではなく、「どう設計するか」にあるという点です。 目的のない出社は柔軟性を損ない、意図ある重なりは定着率を高めます。 「ここでは成長できない」と感じる人が増えれば、それはすでにエンゲージメント低下の兆候です。

📊 インパクト2: 昇進・評価の偏り(近接性バイアス)

成果が同等でも、リモートワーカーは昇進可能性が31%低く、ボーナス受領が38%低いという報告があります【4】。さらに96%の経営層が、「オフィスでの貢献のほうが把握しやすい」と認めています【4】。
問題は、これは意図的な差別ではなく、視界に入りやすい人が無意識に評価されやすいという構造的バイアスにある点です。この状態が続けば、優秀なリモート勤務型メンバーの定着が難しくなるでしょう。 さらに、昇進機会の偏りが積み重なれば、将来のリーダー層の構成そのものが近接性バイアスに影響される可能性も、否定できません。

🧭 インパクト3: 意思決定の質の低下

ワシントン大学の研究では、ハイブリッド環境下でチーム内にサブグループが自然発生し、情報の流れに偏りが生まれることが示されています【5】。 たとえば、廊下の立ち話で決まったことがリモート側に共有されないまま次のステップに進む。あるいは、出社組の中で「すでに合意形成されたこと」が、リモート組にとっては初耳になる。 GitLabの報告では、こうした状態を「二層構造の職場」と呼んでいます【5】。これは意図的な排除ではなく、無意識のうちにそうなってしまうために、対策が難しくなってしまいます。

出社率を上げても、断層は埋まらない

断層を埋めるために、出社日数を増やす。多くの企業が一度はこの選択肢を検討しました。
確かに、物理的に集まる機会が増えれば偶発的な対話は生まれやすくなります。ですが、データはそれだけでは不十分であることを示しています。

ワシントン大学の研究では、週3日出社制度でも5人チームには20万通り以上の出社パターンが発生します【5】。つまり「出社しているのに会えない」状況は、制度上いくらでも起こり得ます。同じ曜日に重なる設計がなければ、日数を増やしても偶然のすれ違いは解消されません。

Acallが過去に行った出社データの分析でも、部門間で出社率に約4倍の差がありました。出社は火曜・水曜に集中し、週の後半にかけて減少する傾向も見られました。しかしその集中は、チーム単位で意図的に重ねた結果ではなく、個人の都合が偶然重なったものにすぎなかったのです。出社の“量”は管理できていても、「誰と誰が重なっているか」という“構造”は設計されていませんでした。この示唆を踏まえ、現在はチーム単位での重なりを可視化し、設計に反映させる取り組みを進めています。

問うべきは出社日数ではありません。「誰と誰が、いつ重なっているか」をどう設計するかです。 出社率という“量”の管理から、重なりという“質”の設計へ。そこに踏み込めるかどうかが、断層への対応を分ける分岐点になります。


断層を「見える化」する —重なりを測る3つの視点

断層が放置される最大の理由は、それが見えないことにあります。逆に言えば、可視化した瞬間から打ち手は具体化します。では実際に、何を見ればよいのでしょうか。

📈 可視化①:部門別出社パターンの把握

座席データやゲートデータから、「どの部門が、いつ、どれくらい出社しているか」を可視化します。Acallの分析では、エンジニアリング部門の出社率24%とセールス部門の91%という二極化がデータで明らかになりました。部門ごとの働き方の偏りは、まずここで可視化されます。

👥 可視化②:チーム出社一致度の測定

同じチームのメンバーが同じ日にオフィスにいる割合を指標化することで、対面機会が構造的に不足しているチームが見えてきます。たとえば、5人チームで週3日出社している場合でも、全員が同じ日に揃う確率は理論上わずか3.2%です【5】。実際にAcallのデータでも、出社率が高い部門でさえ、チーム全員が揃う日は月に1〜2回程度という結果が出ています。この数字が低いチームでは、「出社しているのに会えない」という状態が常態化し、対面コミュニケーションの機会が構造的に不足しているのです。

🗺️ 可視化③:出社率×会議室利用のクロス分析

出社が集中する曜日と会議室利用のピークが一致しているかも確認すべきポイントです。出社しているのに会議室が確保できず、結局オンラインで会議をしていては本末転倒です。空間が、意図した行動を支えているかどうか。データはそのギャップを映し出します。
またGallupは、「職場に親友がいること」がリテンションの強い予測因子であると示しています【6】。これは勤務形態にかかわらず有効な要素ですが、その関係構築の機会が偏っていないかをデータで確認することも大切です。
このように断層は、見えた瞬間から議論できるテーマになるのです。

断層を越える組織設計へ

断層は自然には解消されるものではありません。 離職、評価、意思決定という経路を通じて、組織パフォーマンスに影響を与えます。

求められているのは、出社日数の調整ではありません。 「誰と誰が、いつ重なっているのか」を把握し、その重なりに意図を持たせることです(co-locationパターン【5】)。 偶然に任せていた“重なり”を、戦略として設計する。それが、出社率43%時代の組織設計です。

📌 5月15日開催のイベント
「出社率43%時代のオフィス戦略」では、この設計を実際のデータをもとに掘り下げます。 断層を感覚の問題ではなく、構造の問題として捉え直す。その一歩を、ここから始めてみませんか。

イベント詳細・お申し込みはこちら https://www.workstyleos.com/event/6u7gdog50go/


参考文献

【1】ザイマックス不動産総合研究所. 「大都市圏オフィス需要調査2025秋」2026年1月.
https://soken.xymax.co.jp/report/2601-office_demand_survey_2025a.html

【2】Owl Labs. State of Hybrid Work 2025.
https://soken.xymax.co.jp/report/2601-office_demand_survey_2025a.html

【3】Cisco. Global Hybrid Work Statistics in 2026.
https://archieapp.co/blog/hybrid-workplace-stats/

【4】Euronews. 2024; Reworked. 2025; Envoy. 2022.“Proximity Bias and Promotion Trends.”
https://www.agilus.ca/job-seekers/blogs-and-insights/dont-let-proximity-bias-stand-in-the-way-of-your-promotion/

【5】University of Washington. “Hybrid Policies Can Divide Workplaces.” Journal of Organizational Behavior. 2025.
https://www.washington.edu/news/2025/04/29/qa-hybrid-policies-can-divide-workplaces/

【6】ERE. “The Evolving Landscape of Remote Work in 2025.” MIT Sloan Management Review / Gallup. 2025.
https://www.ere.net/articles/the-evolving-landscape-of-remote-work-in-2025-finding-balance-in-a-hybrid-world

那須 瑶香

Acall株式会社 プロダクト企画グループ 副ゼネラルマネージャー

2019年にAcall入社。マーケティング、海外展開、新規サービス企画など幅広い業務を経て、現在はプロダクト企画グループの副GMとしてAcallのデータ分析領域を牽引。複数企業の会議室利用データ分析を手がけ、データに基づく改善提言と伴走支援に取り組んで

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