寒さも深まる12月。 誰もが無意識に、暖を求める季節です。
実は、会議も同じです。
熱を帯びた活気ある場には自然と人が集まり、意見が交わり、新しいアイデアが生まれます。
その中心にある、小さくて強い熱源──それが「好奇心」です。
ハーバード・ビジネス・スクールの調査では、92%のマネジャーが「好奇心は新しい発想をもたらす」と評価している一方、仕事で好奇心を感じていると答えた従業員はわずか24% にとどまることが示されています【1】。
この大きなギャップは何を意味しているのでしょうか。
それぞれが本来持っているはずの知的な好奇心が、組織の中では十分に発揮されていない可能性があります。
温度差を生む、情報のギャップ
では、なぜ組織では好奇心が発揮されにくいのでしょうか。
その鍵を握っているのが「情報のギャップ」です。
心理学者ジョージ・ローウェンスタインは、好奇心を「知っていること」と「知りたいこと」の間に生まれる、情報のギャップへの反応だと述べています【2】。人は本来、わからない領域に心を引き寄せられるもの。ですが会議では、このギャップがしばしば 「温度差」 として現れてしまいます。
たとえば:
- 一部のメンバーだけが事前情報や決裁の背景を知っている
- 資料を読み込んできた人と、初見の人が混在している
- アジェンダの意図を理解している人と、知らない人が同席している
こうした前提の違いが積み重なると、参加者の温度が揃わず、好奇心という火種が小さくなってしまいます。
同じ資料を前にしていても、ある人は次のステップを見据えて熱量が高まり、別の人は「いま何の話をしてるんだろう」と戸惑いながら座っている──。
その温度のばらつきは、広がるはずだった対話の可能性を狭めていきます。
さらに注意したいのは、経験を積んだ人ほど「自分は理解している」と過信しやすい、いわゆる 「確信エピデミック」 と呼ばれる心理構造です【1】。
情報のギャップが温度差を生み、温度差が「わかったつもり」を強めてしまう。その連鎖の中で、好奇心という火種は消えてしまいます。だからこそ、この小さな火種が消えないようにする工夫が大切です。

火種を育てる3つの視点
好奇心という火種は、見過ごされなければ必ず育ちます。では、その小さな火をどう守り、どう大きくしていけばよいのでしょうか。
✨ 小さな違和感を歓迎する
好奇心は火花のように、気づきという形で現れます。
「なぜ?」と思う、小さな引っかかり
「もっと良くできるかも…」という直感的な気づき
こうした小さな問いが、最初の着火点になります。
情報探索行動の研究によると、探究の出発点は多くの場合「違和感」から始まります【3】。問いや違和感を余計なものとせず、可能性のサインとして受け止めることが大切です。
🌱 問いを育てる
小さな火は、放っておけばすぐに弱まってしまいます。芽生えた問いを育てるために、会議では次のような工夫が有用です。
たとえば:
- 議題の区切りのタイミングで、「他に気になる点は?」と一声かける
- 気づきを投稿できるチャット欄を用意する
- あえて別案や逆の視点を聞き、問いを深める
誰かの小さな違和感が、そのまま置き去りにならないようにする工夫です。
🔥 仕組みとして広げる
個々の好奇心から生まれた種火は、仕組みによってチーム全体のエネルギーへと育っていきます。
たとえば:
- 問いやアイデアを、誰もが触れられる形で可視化する
- 「気づき」や「対話の質」など、探索の行動を評価の観点に含める
- 個人の価値観と組織のミッションを重ねながら、目標を設計する
これらが、個人の好奇心を「個人の中だけで終わらせない」土台になります。

「探索」をチームで楽しむ
好奇心が育つ組織には、「正解を速く見つけること」よりも、「まだ見ぬ価値を探索すること」に重心が置かれています。
組織論の研究者ジェームス・マーチは、学習には既存を磨く「深化」と、未知へ踏み出す「探索」の2つがあると述べました【4】。どちらも組織に欠かせませんが、多くの組織が深化に偏りがちであることも、同時に指摘しています。
目の前の成果を追って既存の方法を洗練させることに重心が傾くと、探索する余地が失われていきます。探索は大きな挑戦ではなく、個人の小さな関心を扱うことから始まります。
会議の場でいえば:
- 結論を急ぐのではなく、問いを持ち寄り、視点を交換する
- 「何を言ったか」だけでなく、その人が「どんな価値観から語っているか」に耳を傾ける
- 何を大事にしたいかという「動機」を対話の軸にする
これは、ひとつの船に乗りながらも違う目的を抱える仲間が、互いの視点を手がかりに航路を見つけていく──そんな冒険に似ています。『ONE PIECE』の麦わらの一味が強いのは、動機の違いがそのまま、航海の推進力になっているからでしょう。
視点の違いを切り捨てずに持ち寄る。その姿勢が整ったとき、会議は未来の選択肢を広げる探索の場として機能しはじめます。
関心が行き交う組織
探索の場で生まれた好奇心を、継続的な力へと変えていくには、個人の関心が組織の中をめぐる仕組みが必要です。
いま、あなたは何に心を動かされているでしょうか。
どんな問いに、思わず前のめりになるでしょうか。
その小さな関心を仕事の目的と重ね合わせることで、好奇心は組織の力になっていきます。
たとえば、新R25が「総PV数」よりも「読者の態度変容(シェアや共感)」を重視するようになったのは、つくり手の関心が乗ったコンテンツほど、読者の反応を生みやすいという考え方に基づいています【5】。Google が社員に「20%ルール」を設け、GmailやGoogle マップのような新しいサービスが生まれたのも、同じ発想です【6】。
🔄 関係性をアップデートしつづける
互いの関心や価値観の「いま」を共有する。個人の関心が組織の中をめぐるためには、そんな工夫が大切です。雑談や1on1、会議の冒頭など、ふとしたタイミングで近況や関心を言葉にするだけでも十分です。
「最近はこんなテーマが気になっている」
「いまはこういう視点を大事にしている」
こうした現在地の共有があるだけで、個人の関心と組織の方向性は重なりやすくなります。

火種を育てつづける
私たちが日々ふと感じる小さな気づきは、いつでも好奇心の火種になります。
その好奇心を「ひとつの火」と捉えて、焚き火のように少しずつ育てていく過程をイメージするとよいかもしれません。
- 最初は、誰かの「なぜ?」という小さな火花が着火点となり、
- 風に消されないように問いを寄せ合いながら火を守り、
- 仲間と薪をくべながら、やがて大きな焚き火へと育っていく。
組織が探索する力を手にするのは、このプロセスが丁寧に育まれたときです。
好奇心の火は、小さくても、静かでも、内側から確かに広がってゆきます。
参考文献
【1】Gino, F. “The Business Case for Curiosity.” Harvard Business Review, 2018
https://hbr.org/2018/09/the-business-case-for-curiosity
【2】Loewenstein, G. “The Psychology of Curiosity: A Review and Reinterpretation.” Psychological Bulletin, Vol. 116, No. 1, 1994.
https://psycnet.apa.org/record/1994-41058-001
【3】杉山昇太郎・中原久志「情報Ⅰにおける生徒の知的好奇心と学習動機の関連性」日本教育工学会論文誌, 2025.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsetstudy/2025/2/2025_JSET2025-2-B2/_pdf/-char/ja
【4】March, J. G. “Exploration and Exploitation in Organizational Learning.” Organization Science, Vol. 2, No. 1, 1991.
https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/orsc.2.1.71
【5】渡辺将基(新R25編集長)インタビュー「新R25編集長に聞く、最後まで読まれるコンテンツに必要な2つのこと」MarkeZine, 2019
https://markezine.jp/article/detail/30946
【6】DanaConnect Innovation Strategies: Unpacking Google’s 20% Time Policy, 2023.
https://www.danaconnect.com/the-power-of-dedicated-innovation-time-unpacking-googles-20-time-policy/


