関係性中心のオフィス——新しい働き方の流れ
オフィスに行く理由ってなんでしょうか?
2020年に新型コロナウイルスの拡大により、多くの企業はリモートワークを導入せざるを得ない状況に直面しましたが、パンデミック収束にともない、徐々に「原則出社」の方向へと戻り始めました。経営者はリモートワークの弊害を解消したいと考え、社員はリモートワークがもたらす柔軟性や快適さに気づき、出社を避けたがる傾向が強まっています。こうした相反する思いを調和させ、効果的なワークスタイルを実現するためには、オフィスにしかない価値を再確認し、それを新たな働き方にどう活かすかを見つけることが必要かもしれません。それは物理的な空間にあるものなのか、それとも、オフィスでしか得られない「人とのつながり」や「直接的なコミュニケーション」にこそ、その価値があるのでしょうか?
その答えの一つとして、最近注目されているのが「関係性ベースの働き方(Relationship-Based Work=RBW)」です。この概念は、グローバル家具デザイン企業MillerKnollが提唱したもので、WORKTECH Academyの最新レポート「THE WORLD OF WORK IN 2025」でも、今後の働き方を変える重要なトレンドとして取り上げられています。
仕事で大切なのは「何をするか」ではなく、「誰と関わるか」。これが新しいオフィスの捉え方の提案です。

ABWからRBWへ——活動から関係性へシフトする理由
これまでのオフィスの主流といえば「Activity-Based Working(ABW:活動ベースの働き方)」でした。集中作業エリア、会議スペース、リラックスエリアなど、「何をするか」に合わせて場所を選べる考え方です。しかし最近では、経営者たちが本当に求めているのは「より良い会社の雰囲気(企業文化)」で、社員たちが探しているのは「ビデオ会議では感じられない同僚との温かいつながり」。そんな流れが主流になってきているようです。
例えるならば、家族の食卓みたいなものかもしれません。栄養を摂るだけなら、一人で食べても全く問題ないけれど、同じテーブルを囲んでワイワイ話しながら食べることで生まれる会話や絆——それこそが同じ食卓を囲んで食事をすることの本当の価値だったりします。RBWは、仕事の場所や方法だけでなく、「人と人のつながり」に注目し、職場での人間関係やチームの活気を育むことを目指します。
その結果、ビジネスとしての成果を上げるだけでなく、いかに楽しんで働きながら、会社に対する愛着や誇りを感じられるか——それがRBWの目指すところです。
RBWと関連する世界のワークトレンド
RBWを実践するためには、どのような環境が必要でしょうか? 世界中の企業は、リモートワークとオフィス勤務をうまく共存させ、物理的な距離や勤務形態の違いを越えて社員同士のつながりを強化する方法を模索しています。これらの新しい動きやトレンドから、RBWを実現するためのヒントを見つけていきましょう。
ビデオヘゲモニー
「ビデオ(video)」は「映像」を指し、「ヘゲモニー(hegemonic)」は「支配」や「優越性」という意味を持つ言葉です。つまりビデオヘゲモニーとは、リモートワークとオフィス勤務をする従業員が平等にコミュニケーションできる環境を作るために、リモートメンバーの顔が現地メンバーと同じサイズで表示されるようにすることで、会議の中で発言機会や交流の平等を保つことができるというアプローチです。
私自身、大規模な会議で現地メンバーとやり取りを行う際、ノートPCに映し出されたリモートメンバーの顔が小さく表示され、その存在感が薄れがちになってしまった経験があります。その結果、リモートメンバーにも平等に発言の機会を与えることの難しさを実感したことがあります。この「ビデオヘゲモニー」の手法を事前に知っていれば、よりスムーズに会議をおこなうことができたかもしれません。
バイブランシー・メトリック
ビデオヘゲモニーがリモートとオフィス勤務の従業員間での平等なコミュニケーションを目指すアプローチであるのに対し、職場の「活気(vibrancy)」を測定する新たな指標として注目されているのが「バイブランシー・メトリック」です。この指標は、チーム内で発生するエネルギーを可視化し、エンゲージメントの向上やメンバー間のつながり強化の成果を客観的に把握するために役立ちます。
この指標を導入することで、チームの活動が活発になり、メンバーのモチベーションや生産性が向上したり、組織全体の健康状態をリアルタイムで測定し、改善すべき点を的確に見つけ出すことが期待されます。
RBWを取り入れるために、すぐに始められる5つのアクション
RBWを取り入れるには、必ずしも大きなプロジェクトが必要なわけではありません。毎日のオフィスで実践できる、少しの『工夫』から始められるアクションを、いくつかご紹介しましょう。
① 「ひとこと雑談タイム」を始めよう
朝礼や週次ミーティングの最初の5分間を”雑談タイム”にしてみましょう。”雑談”では何を話していいか不安であれば、「週末何してた?」「最近のおすすめは?」といった簡単なテーマを用意しておくと、話しやすくなりますよ。Acallではチームの朝会や、週次の全社定例でこの時間を設けていて、その人の趣味や好みに笑ったり驚いたり、お互いの距離が縮まりとても良い効果を生んでいます。
② 「〇〇さんありがとう!」を共有
社内チャットなどで週1回、「〇〇さんありがとう!」を1行だけ書いて投稿。「田中さん、急ぎの資料作成をありがとう!」「佐藤さんのアイデアで解決できた!」など。感謝の気持ちが見える化され、社内の雰囲気が温かくなります。また、投稿することによってその業務に携わることのない人にも温かい気持ちを共有できるのもいいですね。
③ 1on1を「雑談&未来トーク」モードに
普段の1on1(上司と部下の面談)を少しだけカジュアルな時間に変更。進捗確認より「最近どう?」を優先する時間にします。「3ヶ月後、こんな風になったらいいよね」といった将来の話も気軽にできるとその時間がより実りあるものとなります。
④ 「リレーランチ・オンラインver.」
メンバーをランダムに2~3人組み合わせて、30分だけのオンランチ会。月1回など気軽に始められそうな頻度で、「子どもの頃の夢は?」など、簡単なテーマを1つ決めておくと盛り上がりますね。
⑤ チームボードに「今日の気分スタンプ」
MiroやNotion、オフィスのホワイトボードなどに「今日の気分スタンプコーナー」を作ってみましょう。「眠い😪」「元気🔥」「考え中🤔」などの気分をスタンプのみで共有するだけ。ちょっとした気持ちの共有が、お互いを理解する第一歩になります。
こうした小さなRBWを実践することで、職場のつながりが自然に深まっていくのではないでしょうか。

これからの職場づくりに向けて
RBW(関係性ベースの働き方)は、単なるトレンドではなく、人間らしい働き方への原点回帰とも言えるものです。「人間関係が良くなると仕事もうまくいく」——当たり前のようで見過ごされがちなこの真理に、今こそ立ち返る時ではないでしょうか。AIやデジタル技術が進化する今だからこそ、「人間らしさ」を大切にした職場づくりが、私たちの仕事人生をより豊かで意味のあるものにしてくれます。
最終的に心に残るのは、成果や効率ではなく、「誰と、どんな関係性の中で働いたか」という記憶です。そうした関係性こそが、チームや企業文化を育む基盤となるのではないでしょうか。
まずは明日、あなたも職場で、小さな一歩を踏み出してみませんか?
参照:WORKTECH Academy、”The World of Work in 2025: top trends for the year ahead”.WORKTECH Academy.https://www.worktechacademy.com/the-world-of-work-in-2025-top-trends-for-the-year-ahead/


