その「やりにくさ」は、成長のサイン
「あの、すみません…声が聞こえてないみたいです」
「えっと、画面共有されてませんよ」
ーーこんなやりとり、最近増えていませんか?
働く場所の選択肢が広がる中で、対面とリモートが交わる「ハイブリッド会議」はすっかり日常の風景になりつつあります。その便利さの一方、画面越しのやり取りでリアクションや会話のテンポが噛み合わず、「どこかすれ違っている…」そんな違和感を抱く瞬間も増えているのではないでしょうか。
たしかにこれはハイブリッド会議ならではの違和感ですが、そうした「やりにくさ」を感じる瞬間こそ、実は組織が進化するための重要なサイン。
その場に相手がいる・いないにかかわらず、すべての声に目配りし、全員が意見を共有できる「誰もが参加しやすい場」を作れるかどうか——まさに組織としての「器」が試されているタイミングなのかもしれません。
ハイブリッド会議の難しさの構造
「誰もが参加しやすい会議」を実現するためには、ハイブリッド会議特有の「やりにくさ」を理解することが重要です。この「やりにくさ」を引き起こす要素とは、一体どんなものなのでしょうか。
空間的非対称性
会議室では、うなずきや表情の変化など非言語のサイン(ノンバーバルコミュニケーション)が自然に共有されています。一方でリモート参加者にはそれらが届きにくく、体験の深さや一体感に差が生まれます。
それはまるで、同じ音楽を聴いていても「コンサート会場で体感している人」と「ライブ映像を通して観ている人」のような違い。どちらも内容は同じでも、熱気や臨場感の伝わり方には大きな違いが生まれます。この『空間的な非対称性』が、会議の質にまで影響を及ぼすのです。
“Distance Matters(距離は重要だ)”と表現するレポートもあるように[1]、どれだけ技術が進化しても、空間が生むこうしたズレは、いまだ完全には解消されていないのです。
心理的な距離
リモートと対面の参加者のあいだには、物理的な距離だけでなく、心理的な距離も生まれがちです。
たとえばリモート参加者は、対面参加者同士で盛り上がっている場面では発言のタイミングをつかみにくく、「今、話しかけていいのか」と迷いがちです。さらに対面参加者からはリモート参加者の反応や状況が見えにくいため、「ちゃんと伝わっているのか」と不安になることも。こうした相互の迷いが、結果として議論の流れを妨げる要因となります。
Harvard Business Reviewによれば、「リモート参加者は対面参加者に比べて発言機会が少なくなる傾向がある」と報告されています[2]。さらに、コミュニケーションの質を低下させる要因のひとつとして、リモート参加者の状況を把握しきれないことによる不安感があることも、指摘されています[1]。
技術のズレが生む「見えない壁」
ハイブリッド会議では「同じ場にいるつもりでも、実はつながりきれていない」ということが意外と多くあります。たとえば会議室の声が一部しか届かない、話者の表情が映っていない、共有された資料が読みにくい…。そうした些細な不具合が、参加者の意欲や集中力を徐々に削いでいきます。
対面参加者にとっては「見えて・聞こえて」いても、リモート参加者にはそうではないことがあるのと同様に、リモート参加者側が抱える技術的な課題も同じく重要です。技術の整備ももちろん必要ですが、重要なのは相手の視点から「どう見え、どう聞こえているか」を意識することが大切です。

ハイブリッド会議を支える、3つの設計ポイント
ではどんな工夫をすれば、ハイブリッド会議がもっとやりやすくなるのでしょうか?会議の流れに沿って、押さえておきたい3つの設計ポイントをご紹介します。
会議「前」の下ごしらえ
ハイブリッド会議の質を大きく左右するのは、会議が始まる前の準備にあります。
会議の目的を明確にし、資料を事前に共有し、参加者に小さな役割を割り振る…。こうした丁寧な「下ごしらえ」で、会議の流れはぐっとスムーズになります。料理と同じで少し手間はかかりますが、材料と手順がそろっていれば、あとの進行が格段に楽になります。
特にハイブリッド環境では、「なぜこのメンバーが、同じ時間を共有するのか」という目的意識を揃えることが重要です。ここでいう「集まる」とは、必ずしも同じ物理空間にいることではなく、同じ時間を共有して同じ目的に向かうことを意味します。
Microsoftの調査によれば、ハイブリッド勤務者の38%が「いつ、なぜ出社すべきか」を最大の課題と感じているといいます[3]。これは「集まること」の意味が見えにくくなっている現代の働き方を象徴しているのかもしれません。だからこそ、会議の目的や「この場を共有する意義」をあらかじめ明確にすることが、参加者の納得感や関心を高める鍵になります。
会議「中」ーー参加を促す仕掛けづくり
会議が始まったら、ファシリテーター(進行役)の腕の見せどころです。
「○○さん、この件についてどう思いますか?」「チャットに面白い意見が出ていますね、取り上げてみましょう」といった声かけは、参加者が安心して発言するきっかけになります。
Acallでは、全社会議の冒頭に「お花見におすすめのスポットは?」といった軽い話題を投げかけ、3分ほどのチェックインを実施しています。短い時間ながら、場の空気を和らげ、その後の議論がスムーズに進みやすくなる効果があるのでおすすめです。
ハイブリッド会議では、対面とリモートの参加者がそれぞれ平等に参加できるようにするための工夫が欠かせません。成功させるためには、リアルとオンラインの場を同時に運営する意識が不可欠だと指摘されています[2]。たとえば、ホワイトボード機能を使ったブレインストーミングや、リアルタイム投票での意見集約機能を活用することで、参加者は平等に意見を交換しやすくなり、各自のペースで発言やフィードバックを出しやすくなります。
会議「後」ーー次へつなげるひと手間
会議は、終わってからが本当の仕事。
議事録や決定事項の速やかな共有はもちろんのこと、見逃せないのが会議後にふと交わされる「廊下会議」——オフィスに残ったメンバー同士の雑談や意見交換です。こうした非公式なやりとりの中には、重要な気づきや方向転換のヒントが隠れていることも。だからこそ、参加できなかった人にも共有し、チーム全体で意思をそろえることが大切です。
たとえば「会議後に○○さんとこんな話をしました」と、軽くチャットや会議メモに添えるその一言が、温度差や情報格差を埋め、チームの一体感を支える土台になります。

多様性を活かす、新しい会議のかたち
会議のハイブリッド化によって見えてきた課題は、実は従来の対面型会議にも潜んでいた問題だったのかもしれません。「リモートでは発言しにくい」という声も、以前から立場や性格によって発言しづらかった人たちの現実を、改めて浮き彫りにしただけかもしれません。
こう捉えれば、今感じている戸惑いや行き詰まり感は、むしろ会議のありかたを見直す絶好のチャンス。多様な視点を取り入れることで、より良い形へと進化させていけるはずです。
柔軟な働き方を取り入れている組織では、多様な人材の採用や定着が進んでいるという報告もあります。さらに、ハイブリッド環境での継続的な工夫や改善を重ねることで、職場の包摂性(インクルージョン)が最大で24%向上する可能性があるとも言われています[3]。
会議が変われば、組織も変わる
変化に直面したときに感じる「やりにくさ」や「違和感」は、新しい可能性への入り口です。
ハイブリッド会議は、単なる「働き方の選択肢」ではありません。それは、組織のコミュニケーション力と包摂力(インクルーシブネス)を試す場でもあります。設計次第で会議の質だけでなく、組織の一体感や信頼関係も大きく高めることができるのです。
小さな工夫の積み重ねが、やがて組織そのものを変えていく。その第一歩を、次の会議から始めてみませんか。
参照:[1] Olson, G. M., & Olson, J. S.“Distance Matters.” Human-Computer Interaction.2000,15(2-3),139–178.https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1207/S15327051HCI1523_4
[2] Harvard Business Review.“What It Takes to Run a Great Hybrid Meeting.” Harvard Business Review.2021.6. https://hbr.org/2021/06/what-it-takes-to-run-a-great-hybrid-meeting
[3] Microsoft.“Great Expectations: Making Hybrid Work Work.” Microsoft WorkLab.2022.https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/great-expectations-making-hybrid-work-work
Mural.“A complete guide to running hybrid meetings.” Mural Blog.2023.https://www.mural.co/blog/hybrid-meetings


