
『伴走するマネジメント』
自由国民社
1980円(本体1800円+税)
[本書の構成]
第1章 「個の尊重」時代に深まるマネージャーの苦悩
第2章 「伴走するマネジメント」とは何か
第3章 伴走するマネジメントの実践(1)
守破離の「守」「破」‥‥ 期初編
第4章 伴走するマネジメントの実践(2)
守破離の「守」「破」‥‥ 期中編
第5章 伴走するマネジメントの実践(3)
守破離の「離」
「厳しさ」と「優しさ」の両極の間で揺れるメンバーマネジメント
業種を問わず、企業のマネジャーの仕事は、以前とは比べものにならないぐらい難易度を増しています。
プレーイング・マネジャーとして数値責任を追いながら、メンバーとコミュニケーションを図りつつ成長を支援するという、その両立に苦心している方が多いのではないでしょうか。
そんな中で昨今、企業のメンバーに対するマネジメントは「厳しさ」と「優しさ」の両極で揺れているように見えます。
政府が唱道する「働き方改革」の機運のもと、企業に限らず、あらゆる組織のマネジャーにはメンバーの「個」を尊重することが求められています。
業務における能力向上をサポートするのは当然ですが、同時に過重労働を避け、メンタルの状態にも気を配る必要があります。そこでは、メンバーとの密なコミュニケーションが欠かせません。そのような、個を尊重し、対話を欠かさない関与のあり方が「優しいマネジメント」と言えます。
一方、このようなマネジメントについて、「若手に迎合しすぎではないか」との意見もあり、「厳しいマネジメント」を主張する層もいます。対話より目標必達、つまりパフォーマンス管理のみ重視する、というスタンスです。
ここで疑問があります。「優しさ」と「厳しさ」は、どちらかを選ばなければならないものでしょうか。
そうではない、と主張するのが本書『伴走するマネジメント』。帯にあるように「厳しさと優しさを使い分ける」マネジメントを説いています。
「厳しさ」と「優しさ」についての著者の考え方は明快です。
ルールには厳しく、コミュニケーションは優しく、が原則です。
(本書3ページ)
簡にして要を得た指摘だと思います。
組織が目標を持つ以上、その実現に向けて「厳しさ」を必要とするのは当然です。相手と合意の取れたルールや基準に関して冷静に評価をすることや、フィードバックをすることも厳格さであるといえます。それはパフォーマンス管理に関わる部分です。
ただ、それだけではメンバーのやる気は高まりません。メンバーにMUST(やるべきこと)を実行してもらいながら、CAN(できること)が増えればそれを褒め(評価し)、将来的なWILL(やりたいこと)を聞きながら、その実現に向けた支援をする。コミュニケーションは優しく、というのは、そういう意味でしょう。
「視界を共有する」ことがマネジメントの大前提
著者の和田真二さんは、マネジメントをブラインドマラソンにたとえて、次のように述べます。
手を取って補助することが伴走者の役割なのではなく、視界の異なるランナーに対して状況をしっかりと説明し、ゴールに向かって自立して走ってもらうことが伴走者の役割、ということです。
「視界を共有しないとランナーは安心して走れない」ここが大事なポイントです。
(本書97-98ページ)
自分が思うように部下が動かない。そのため成果が上がらない。
その理由を和田さんは、マネジャーとメンバーとの「視界が異なっているから」であると説明します。
視界が異なっているのはなぜかというと、マネジャーとメンバーとでは与えられている役割が違い、そのため入ってくる情報の質・量が違うから。もちろん経験や能力にも違いがあります。
だから、同じものを見ているはずなのに、「どう見えるか」が大きく異なっている。
では、「視界を共有する」ためにマネジャーが行うべきことは何か。これが本書のメインモチーフになります。「厳しさ」か「優しさ」か、を問う前に、まず視界を共有すること。そして状況によって「厳しさ」と「優しさ」を使い分けること。
このことを知るだけで、マネジャーの視界は晴れるような気がします。
昨今嫌われがちな「指示管理型」を基本とする「伴走するマネジメント」
まず第1章で、マネジメントの4つのタイプが紹介されます。
- 指示管理型…業績達成にこだわり、日常の指示・管理を重視する
- 職人型…マネジャー自ら率先垂範し、成果を出すことを重視する
- ビジョン型…事業の目的や意義、行動のあり方や考え方の浸透を重視する
- 奉仕型…多様なメンバーの意思と、関係性を重視する
伴走するマネジメントは、このうち①指示管理型を基本とします。「個の尊重」が重視される現状では、嫌われがちなタイプですが、和田さんはこう説明します。
指示管理型にはメンバーが指示待ちになりがちな傾向があったり、「マイクロ・マネジメント」が横行しがちであるという短所があります。
(中略)ただ、業績目標を達成する責任があるマネージャーにとっては、指示管理が一切ない、という状態はあり得ません。つまり、本質的にダメなマネジメント手法ではない、ということです。
伴走するマネジメントは、指示管理型から、先に挙げたようなマイナス点を消し去り、良き本質部分を活かそうというマネジメントです。
(本書94ページ)
この指示管理型に、適宜ほかの3つのマネジメント・対応を組み合わせて進めるのが「伴走するマネジメント」のあらましです。
本書では、期初から期中へという時間軸に沿って、部下マネジメントの手法が詳細に、かつ実践的に語られます。
その手法の一端を紹介しましょう。
マネジャーは、メンバーと視界を共有し自立を促す
和田さんは、3つの自立がある、と説明します。
自立には「専門性の自立」「思考の自立」「行動の自立」の3種類あります。
まず「専門性の自立」は「その分野での専門知識や技術を持っていて、一人である領域の仕事ができること」を指します。(中略)
一方、「思考の自立」は「仕事に対してつねに問題意識を持ち、問題解決に必要な深く考える力を持っていること」を指します。(中略)
そして「行動の自立」は「主体的に行動すること」「挑戦すること」を指します。
(本書106-108ページ)
そして、和田さんはこのうち「思考の自立」が最も重要である、と説きます。
思考の自立は、別の表現をすると「つねに問いを出せる状態にいること」。正解が見出しにくい今の時代には、それが成果を左右します。
その思考の自立については、「地頭がいい」「空気が読める」など、持って生まれたセンスによって決まるのではないか、と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
マネジャーとメンバーが視界を共有し、共に行動することを通して、思考の自立は鍛えることができる。つまり、スキルとして捉えることができる、と本書は説きます。
個別面談では「結果」「施策」「言動」「能力」「やる気・意欲」の5つの観点を分けて考える
チーム、個人の結果は様々な施策に支えられています。また、その施策は日々の望ましい行動によって実行され、そのベースには個々人の能力ややる気、意欲があります。マネジャーは、メンバーに最大のパフォーマンスを上げて欲しいと願うものですが、いつも望ましい結果につながるとは限りません。
(中略)マネジャーは客観的な立場でメンバーの話を聴き、「結果」「施策」「言動」「能力」「やる気・意欲」という五つの観点のどこに課題があるのかをメンバーと共有し、時に解決を支援しましょう。
(本書258ページより、一部を改変して抜粋)
とかく評価は、結果の良し悪しだけでなされがちですが、結果に至るコンディションを要素分解して検証することで、当人にも納得感が生まれます。この評価の納得感は、強いチームにとって必要条件です。さらに、5つの観点による対話を通して、マネジャーとメンバーの双方にとって「次のアクションをどうすればいいか」という指針も得られるでしょう。
こうしたコミュニケーションによって視界を共有することでメンバーのパフォーマンスは上がり、組織として強くなる。成果も上がる。
これが伴走するマネジメントの真価である、と言えます。


