部下の「強み」に着目し、それを伸ばす指導を実行する

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『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』

P.F.ドラッカー(上田惇生編訳)

ダイヤモンド社

1980円(本体1800円+税)

マネジャーとは「部下の仕事に責任をもつ者」なのか?

ドラッカーは、オーストリア・ウィーン生まれの経営学者。「マネジメントの発明者」などと称されていて、数多くの書籍を著し、世界中の経営者に影響を与えてきた大家です。意識の高いビジネス・パーソンであれば、知らぬ者のない存在と言えます。

ただ、名前は知っているけれど読んだことはない、という方もいるでしょう。

多くの著作を残したドラッカーですが、初めの一冊としてお勧めしたいのが、この『プロフェッショナルの条件』です。

本書は書き下ろされたものではなく、ドラッカーの著作10冊と論文1本から抜粋し、編集されています。いわば、ドラッカーのエッセンスとも言えますが、いわゆる経営学ではなく、人の能力と役割にテーマを絞った本。「生き方・働き方」という切り口ですから、誰もが自分ごととして読める、という特徴があります。

マネジメントとは何か。本書は、こんな素朴な命題から始まります。

第二次大戦中とその直後、私が初めてマネジメントについて研究を始めたころ、経営管理者とは、「部下の仕事に責任をもつ者」と定義されていた。換言すれば、ボスだった。地位と権力を意味した。

今日にいたるも、多くの人が、マネジメントというと、おそらく心に描くであろう定義が、これである。

(本書26-27ページ)

周囲を見回せば、今でも「地位と権力を誇示する(だけの)人」がいるはずです。マネジメントの機能を考えようとしない人、と言えるでしょう。

ドラッカーは、こう指摘します。

しかし、五〇年代の初めにはすでに、経営管理者とは、「他の人間の働きに責任をもつ者」と定義されるようになっていた。しかも今日、われわれは、この定義さえ、あまりに狭義であることを知っている。正しくは、「知識の適用と、知識の働きに責任をもつ者」である。

(本書27ページ)

本書が前提とするのは、情報技術が産業を支配するポスト資本主義に転換した現代。

すでに土地、労働、資本という、かつて中心的だった経営資源は後景に退き、知識こそが資源の中核になりました。だからこそマネジャーは、「部下の仕事に責任をもつ者」から「知識の適用と、知識の働きに責任をもつ者」へと意識を変えなければ、役割を全うすることはできない、ということになります。

部下の欠点をなくす指導はたいてい徒労に終わる

ポスト資本主義へ、という時代変化を踏まえて、「どのように働くか」というテーマを巡って編まれたのが本書ですが、特にお勧めしたいのが「PART3 2章 自らの強みを知る」です。

成果をあげるためには、人の強みを生かさなければならない。弱みを気にしすぎてはならない。利用できるかぎりのあらゆる強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。

(本書189ページ)

マネジャーは、部門の業績目標を達成することに加えて、部下の成長を支援することを責務として課されています。そして、多くのマネジャーは、指導の目的は部下の欠点をなくすこと、と考えがちです。

しかし、たいていの場合、それは徒労に終わります。

少し幼い例え話をしますが、あなたが数学が苦手だったとして、先生に「その欠点をなくそう」と強いられたとします。それで、あなたは歯を食いしばって努力し続けて、数学を得意科目にすることができるでしょうか。私だったら、たぶん途中で逃亡します。

それより、得意な国語を伸ばした方がいい。両者が生むストレスの違いは、歴然としているでしょう。

組織といえども、人それぞれがもっている弱みを克服することはできない。しかし組織は、人の弱みを意味のないものにすることができる。組織の役割は、人間一人ひとりの強みを、共同の事業のための建築用ブロックとして使うところにある。

(本書189ページ)

いかに、それぞれの強みを組み合わせて、最大のパフォーマンスを達成するか。それこそが、マネジャーに課せられた課題であるということです。

どうやって「強み」を発見し、それを維持・向上させるのか

ただ、難しいのはここからです。

誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思っている。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。それさえ間違っていることが多い。

(本書112ページ)

わからないことに働きかけようとしても、無理でしょう。それは自分の強み/弱みだけでなく、部下の強み/弱みについても同じです。

それでも弱みではなく、強みに着目するべきである、とドラッカーは主張します。その理由は明快です。

しかし何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。

(本書 112ページ)

では、自分の/部下の強みを知るには、どうすればいいのでしょうか。

強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するかを直ちに書きとめておく。九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。(中略)こうして二、三年のうちに、自らの強みが明らかになる。

(本書112ページ)

そうやって知った強みを前提として、行うべきことをドラッカーは挙げます。

① 明らかになった強みに集中する

その強みをさらに伸ばす

知的な傲慢を正す自らの悪癖を改める人への対し方が悪くて、みすみす成果をあげられなくすることを避ける

行っても成果のあがらないことは行わない

⑤ 努力しても並にしかなれない分野に無駄な時間を使わない

とても実践的で、わかりやすい指摘であると思います。

努力が成長につながる最良の方法とは何か

PART4で語られる「成長するための原理」もまた、とても説得力があります。

成果をあげるための第一歩は、行うべきことを決めることである。いかに効率があがろうとも、行うべきことを行なっているのでなければ意味がない。

(本書232ページ)

成果をあげる道は、尊敬すべき上司、成功している上司を真似することではない。たとえ私の本であっても、それに載っているプログラムに従うことではない。自らの強み、指紋のように自らに固有の強みを発揮しなければ、成果をあげることはできない。なすべきは、自らがもっているものを使って成果をあげることである。 

(本書232-233ページ)

ここでもやはり、「自らの強み」が成果をあげるための決め手である、と語られます。

仕事を通して成長しようという意欲を持った人は、そのためにさまざまな努力をします。本を読む、研修を受ける、あるいは社会人大学院に行くなど、コストと時間をかける人もいます。

ただ、その時に、何にフォーカスするかが大事です。「何のため」が曖昧なまま、闇雲に努力を続けても成果は少ないでしょう。

「自分の強みを見つける」「強みを伸ばす」。そこにフォーカスするなら、努力は、最高の効率を発揮し、成長につながっていくのだと思います。

[本書の構成]
PART1 いま世界に何が起こっているか
1章 ポスト資本主義社会への転換
2章 新しい社会の主役は誰か

PART2  働くことの意味が変わった
1章 生産性をいかに高めるか
2章 なぜ成果があがらないのか
3章 貢献を重視する

PART3 自らをマネジメントする
1章 私の人生を変えた七つの経験
2章 自らの強みを知る
3章 時間を管理する
4章 もっとも重要なことに集中せよ

PART4 意思決定のための基礎知識
1章 意思決定の秘訣
2章 優れたコミュニケーションとは何か
3章 情報と組織
4章 仕事としてのリーダーシップ
5章 人の強みを生かす
6章 イノベーションの原理と方法

PART5 自己実現への挑戦
1章 人生をマネジメントする
2章 〝教育ある人間〟が社会をつくる
3章 何によって憶えられたいか
付章 eコマースが意味するもの—IT革命の先に何があるか

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