「4段階のプロセス」で働き方を変革する(後編)

508

『リデザイン・ワーク 新しい働き方』

リンダ・グラットン

東洋経済新報社

2090円(本体1900円+税)

[本書の構成] 

  1. どのように仕事をリデザインするか 
  2. 理解する 
    • 生産性を支る行動と能力
    • 知識の流れ人的ネットワークのしくみ
    • 社員が仕事会社に期待すること 
    • 現場でなにが起きているのか 
  3. 新たに構想する 
    • 新たに構想する–「働く場所」と「働く時間」 
    • 場所を新たに構想する–「協力の場」としてのオフィス 
    • 場所を新たに構想する–活力のもとになる自宅 
    • 時間を新たに構想する–課題に超・集中する
    • 時間を新たに構想する—よりよい連携のために 
  4. モデルをつくり検証する 
    • 新しいデザインは未来にも通用するか 
    • 新しいデザインはテクノロジーの変化に即しているか 
    • 新しいデザインは公平で正義にかなうものか 
  5. 行動して創造する 
    • 優れたマネジャーが果たす役割 
    • コ・クリエーションの力 
    • リーダーの『語り力』 
    • リデザインの4つのステップ 

リモートワークの代表的なマイナス点は「計画された偶発性」が期待できないこと

ハイブリッドワークを進めるに際して、「どのようなオフィスが理想的か」という問いを働く人に投げかけるのは有益かもしれません。

オフィスという言葉は、物理的なスペースを連想させますが、実際には多くの社員にとって「それ以上」の意味を持っています。

この点は、2020年3月15日に私のウェブセミナーに参加した人たちの反応にもよくあらわれている。この人たちが恋しく感じていたのは、オフィスという空間そのものではなく、そこで一緒に働いていた同僚たちだったのだ。(本書121ページ) 

本書ではここからシェアードオフィス、サテライトオフィス、ハブオフィスなど、多様なオフィスのあり方を示します。

それぞれの形態がどうであれ、多くの人がそこに期待するのは、「ほかの人たちとつながる場」である、ということです。

みんなが同じ場所で働くことの恩恵の一つについて、リンダ・グラットンさんは次のように指摘します。

それは、新しい組み合わせによるイノベーションが促進されることだ。互いのことをよく知らない、ことによるとまったく知らない人同士、つまり弱い紐帯で結ばれた人たちが偶発的に接点をもつことにより、それが実現する。斬新なものや傑出したものが生まれる土台になるのは、そのようなシンクロニシティ、俗に言う給湯室の会話である場合もある。

(本書130ページ)

それをふまえて逆の言い方をするなら、リモートワークの代表的なマイナス点は「計画された偶発性(Planned Happenstance Theory)」が期待できない、という点にある、ということになりそうです。

偶発性も担保した最適な働き方はどのようなものか。自社にとってのベストについては、調査やヒアリング、それに基づく実践の中で、見出していくべきなのでしょう。

優れたマネジャーは4つの重要な思考様式の転換を遂げている

働き方のリデザインについて、1.理解する→2.構想する→3.検証する→4.創造する、という4段階のプロセスを追いながら書き進められる本書は、最後の「4.創造する」において、マネジャーの役割について言及します。

「仕事のあり方を設計し直すために、優れたマネジャーが欠かせないことははっきりしている」とした上で、新型コロナのパンデミックを通して、優れたマネジャーは4つの重要な思考様式の転換を遂げている、と指摘するのです。

第1は、旧来のピラミッド型組織的でマネジャー主導の発想「私が成功を収めるのを助けるためにチームがある」を脱却し、もっとチーム志向の思考様式「チームを成功させるのが私の役割だ」に転換している。

第2は、リソースを抱え込もうとするのではなく、ほかの人たちと共有しようとする思考様式に転換していること。

第3は、固定的なチームから流動的なチームへと社内のチームのあり方を移行させる企業が増えていることを受けて、「私は固定的なチームのマネジメントとコントロールを担っている」という考え方を捨てて、「私のチームは流動的だ。メンバーがほかの部署のプロジェクトで働いたり、ほかの部署からメンバーを借りたりする」という認識に転換していることだ。

第4は、働く時間と場所の柔軟性が高まるなかで、「私はチーム内の仕事を割り振り、オフィスで仕事を実行させる」と考えるのではなく、「仕事はどこでもできる。重要なのは、あくまでも業務とプロジェクト。社内外の人材を活用して仕事をおこなう」という発想に転換していることだ。

(本書295-297ページ)

マネジャー主導からチーム志向へ。

リソースの独占から共有へ。

固定的なチームから流動的なチーム・マネジメントへ。

オフィスという場所に制約されないマネジメントへ。

この4つの思考様式の転換は、コロナを契機に、これまで長年、組織に染み付いたマネジメントに関する価値観が覆されたことを意味します。

新旧のどちらが組織に成果をもたらしやすいか、私には自明に思われます。

トップダウンとは違うコ・クリエーションの可能性

本書は結びの部分で、変革のマネジメントへのアプローチとしてトップダウンではなく、コ・クリエーションという方策を示します。

例えば、スウェーデンの通信会社であるエリクソンは、変革を推進するにあたり、社員の参加に重きを置きました。

そのための出発点と位置づけたのは、厳しい問いを発すること、そして実のある話し合いをすることだった。(人材マネジメント担当副社長の)ミルスタムのチームはそのために3日間のプログラムを設計し、ただちに100人のグループで実施した。「それは社員主導の性格が強い活動でした。ピラミッド型組織における階層に関係なく、社員が互いに学び合うことを促したいと考えたためです(中略)」

 この活動は社内のさまざまな事業部門の間のつながりを生み出し、情報とアイデアの民主化に大きく寄与した。

(本書316ページ)

エリクソンでは2019年までに、働き方に関する議論に誰もが参加できるようにした。ミルスタムはこう振り返る。

誰もが参加できるようにしたことは、大きな一歩になりました。議論に社員を参加させたいという意思を示すことができたのです。

(本書317ページ)

2020年4月28日、新型コロナのパンデミックが始まって2カ月ほど経った時点で、1万7000人の社員が参加するバーチャル対話がおこなわれた。話し合われたテーマは2万8000件以上。コロナ禍の下で働くことの難しさ(人との接点がなくなったことなど)と恩恵(集中力が削がれる要因が減り、生産性が高まったことなど)が話題に上った。

(本書318ページ)

小さく始められたエリクソンの社員参加は、どんどん規模を大きくし、ほぼ全社を挙げてのバーチャル・コミュニケーションへと展開しました。

仕事のリデザインのプロセスをあと押しし、新しい働き方を自社の価値観に沿ったものにするうえで、このようなコ・クリエーションはどのように役立ったのでしょうか。リンダ・グラットンさんは、こう言います。

ミルスタムが指摘するのは、「周辺視野」を広げる効果があったという点だ。自分の周囲の人以外の声が耳に届くようになったのだ。(中略)ほかの人たちの言葉をじっくり聞くことにより、人々はその人たちの状況をより深く理解し、その人たちの立場に立ってものを考えられるようになったのである。

(本書318-319ページ)

ここに至って、問題の本質が「在宅か出社か」などではないことが、さらにハッキリします。

 アフターコロナの時代における働き方のリデザインは、とりもなおさずマネジメントの変革そのものである、というのが本書の主張の一つです。

そして、そのベクトルはトップダウンではなくコ・クリエーションであり、多くの社員が参加する対話によって最適解が導かれます。また、専横的ではなく民主的なコミュニケーションのあり方が、良い働き方に結びつき、良い働き方は結果として生産性と業績を向上させることになる。

読後には、そんな未来像が浮かび上がってきます。

この記事をシェア

人気記事