
『リデザイン・ワーク 新しい働き方』
東洋経済新報社
2090円(本体1900円+税)
[本書の構成]
- どのように仕事をリデザインするか
- 理解する
- 生産性を支る行動と能力
- 知識の流れ人的ネットワークのしくみ
- 社員が仕事会社に期待すること
- 現場でなにが起きているのか
- 新たに構想する
- 新たに構想する–「働く場所」と「働く時間」
- 場所を新たに構想する–「協力の場」としてのオフィス
- 場所を新たに構想する–活力のもとになる自宅
- 時間を新たに構想する–課題に超・集中する
- 時間を新たに構想する—よりよい連携のために
- モデルをつくり検証する
- 新しいデザインは未来にも通用するか
- 新しいデザインはテクノロジーの変化に即しているか
- 新しいデザインは公平で正義にかなうものか
- 行動して創造する
- 優れたマネジャーが果たす役割
- コ・クリエーションの力
- リーダーの『語り力』
- リデザインの4つのステップ
多くの企業は再び「在宅勤務→出社」へとワークスタイルを逆戻りさせているが
新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を契機に、ものごとの根本的な大前提の多くを問い直し、新しい行動パターンを取り入れて、働き方を一新しよう、と提言するのが『リデザイン・ワーク』です。
著者のリンダ・グラットンさんはイギリス人で、組織論の研究者。日本では2016年に刊行された『LIFE SHIFT』がベストセラーになり、世界中に「人生100年時代」という概念を広めることになりました。
長寿化の時代になった今、仕事人生を含めた生き方を再設計する必要がある。これが『LIFE SHIFT』の主張であり、働く個人と企業組織に、多大な影響を与えました。
そんなリンダ・グラットンさんがアフター・コロナにおける新しい働き方を示したのですから、再び熱い注目を浴びることになりました。
コロナ禍によって、私たちは、さまざまな制約に直面しました。「在宅勤務」「リモートワーク」「仕事時間とプライベートな時間の融解」など。これらは当初、戸惑いと混乱を生みましたが、5年経って、すっかり私たちはそれに慣れました。落ち着いてみると、それは制約であると同時に、新たなチャンスを生んだこともハッキリしてきました。
例えば、これまで長い間、働く人は長時間の通勤、オフィスでの長時間労働を当たり前のことととらえ、それに耐えてきましたが、それは心身の疲弊を伴うものでもありました。
予期しなかった疫病をきっかけに始まったリモートワークなどの緊急避難的な行動によって、これまでの無理と不合理を伴う働き方は、企業目的に照らして「絶対的な要件」ではなかったことが明らかになりました。
ロックダウンや在宅勤務の義務化などにより、他の人たちと同じようなストレスや重圧を身に染みて経験したことで、多くの企業リーダーは、社員の境遇への理解と共感をはじめていだくようになったのである。
こうして、リーダーたちは、差し当たり好ましい状況をつくり出し、さらには長い目で見て有効な変革を実行するために、本腰を入れはじめた。
(本書12ページ)
日本においては、必ずしも「変革の実行」は一直線に進んでいるわけではありません。
コロナが収束した今、多くの企業は再び「在宅勤務→出社」へとワークスタイルを逆戻りさせています。
そのまま完全に元に戻るのか、せっかく発見したリモートワークという働き方を残してハイブリッドワークを進めるのか。これから日本企業の進み方は分かれていくのでしょう。
職場における新しい働き方をリデザインするための方法論
ただ、それらは表層的な出来事に見えます。ことの本質は「在宅か出社か」という二元論ではないでしょう。
企業が新しい仕事のあり方をデザインするにあたり、コロナ禍の経験から引き出せる前向きな材料は少なくありません。
例えば「人と人とのつながりの重要性が再認識された」こと。
目に見えにくいけれど、しだいに顕著になってきたのは、在宅勤務が人々の人的ネットーワークに及ぼす予想外の影響だ。概して、人的ネットワークが縮小しているのである。自宅で働く人たちは、すでによく知っている人と関わり合う時間が長く、あまりよく知らない人と関わる時間が比較的短い。(中略)
バーチャル環境では一部の社員のニーズが満たされにくいことも理解されはじめている。対面のやり取りがなくなったことは、会社で働きはじめたばかりの若い社員にとってとくに難しい状況を生み出しているのだ。若手が職場でほかの社員と一緒に過ごせず、同僚の様子を観察して、ちょっとした情報を吸収する機会がなければ、仕事の内容、社員に求められる行動、自社で期待される振る舞い方をどのように学べばいいのか。
このような人と人とのつながりの重要性は、企業幹部たちも理解しはじめている。
(本書21-23ページ)
リモートワークによって希薄化する人と人との関わり。その危うさにも多くの人が気づきはじめています。在宅か出社か、という選択ではなく、両者のいいところどりをする、というのがおそらく正解なのでしょう。在宅には長所ばかりではなく短所もあり、出社にも同じくそれがあるからです。
リンダ・グラットンさんは、次のように指摘します。
新型コロナのパンデミックという集団的な経験をきっかけに、働き手が仕事と職業生活になにを求めていて、リーダーが自社でどのようなことを促進・導入したいかについて、改めて考え直す契機が訪れた。コロナ禍は、いくつもの根本的な前提を問い直し、新しい行動パターンを採用し、仕事のやり方に関する新しい物語を紡ぎ出す機会をもたらしたのだ。
(本書 23ページ)
働き方の変革、つまり職場における新しい働き方をデザインし直す=リデザインするための方法論を伝えることが、本書の主題です。
働き方のリデザインに出来合いのノウハウはない
働き方のリデザインについて、本書は4段階のプロセスを提唱します。
- 自社の重要な要素について理解する
- 未来の仕事のあり方を新たに構想する
- モデルをつくり、検証する
- モデルに基づいて行動し、新しい働き方を創造する
この4つのプロセスから、おそらくご理解いただけると思いますが、働き方のリデザインには出来合いのノウハウはありません。会社ごとに、あるいは職場ごとに自分たちで考え、最適なあり方を模索する必要があるのです。
そのためにも、最初の「自社の重要な要素について理解する」というプロセスを避けて通ることはできません。
リンダ・グラットンさんは、こう述べています。
仕事の再設計に乗り出す際は、自社で成果に寄与している要素がなにか、社内の人的ネットワークがどのような知識の流れを生み出しているか、社員がなにを望み、どのような要素によって会社へのエンゲージメントを高めるのかを把握することが重要になる。
(本書44ページ)
こうした自社の要素を把握し、さらに人によって異なる「働く価値観」の多様さをアンケートやヒアリングによってつかみます。このような準備をしたうえで、自社に合った仕事のあり方を新たに構想し、モデルをつくって検証し、実践に踏み出すというプロセスをリンダ・グラットンさんは推奨します。
働くモデルについては、職種、業種によっても違いがあるでしょう。
容易に想像がつくことですが、工場などハードウェアを製造する部門では、完全なリモートワークは不可能です。そこではシフトのあり方を検討する、という程度に止まらざるを得ません。
一方、ソフトウェア開発や非生産部門については、無数のバリエーションが考えられます。
企業がどのような働き方のデザインを選択するかには、働く場所・時間と生産性の関係に関する考え方が反映されている。ゴールドマン・サックスが全社員にオフィスへの出勤を求めたり、カナダ年金制度投資委員会が毎年3カ月間好きな場所で働くことを認めたりする背景にも、この点に関するそれぞれの組織の考え方がある。ゴールドマン・サックスの上層部は、全員が同じ場所で働くことを働き方のデザインの核に据えていて、カナダ年金制度投資委員会の上層部は、ひとりひとりが異なる場所で異なる時間に働くことの好影響を期待しているのだ。
(本書110ページ)
ここでも働き方のデザインには「正解」があるわけではなく、自社なりの最適解を求めるしかないことが示唆されています。


